013 街に行きたいです!
寒い。
寒さで目が覚めた。
体全体に毛布を掛けられていて裸だ。
かろうじてパンツは履いている。
「起きたか」
エプロンをつけたミリアさんが僕を見下ろしている。
「へっ? あっおはようございます……朝ですよね?」
「夜に見えるのか?」
首を回すと簡易ベッドの上に僕はいて、近くの窓からは朝の眩しい光が見える。
またやってしまった。
記憶が無い。
温泉に入って、水と思ってお酒を飲んでから記憶にない。
きっとすぐ倒れたんだろう。
「すみません、僕ってお酒飲むと記憶があいまいで倒れるんですよ、良く服を取られてるし。すぐ寝ちゃいましたかね」
「自分でぬい……そ、そうだな……………………そういう事にしておこう。一応伝えとく、他人のと見比べた事はそうそうにほぼないが立派と思うぞ」
「はい? 何かいいました?」
後半の声が小さくて聞き取れない。
「何も。それよりもラックの服はゲロまみれで洗いに出した。今はクアッツルが干しに行っているから暫くは毛布で……いや、その辺に予備の服が置いてあるだろう。適当にサイズの合うのを着たほうがいいな」
「はい、何から何まですみません」
「気にするな、私の足の治療代と思ってくれていい。それと……これを」
ミリアさんは僕の近くにあったテーブル代わりの台に金貨三枚を置いた。
「治療費の一部だ」
「お金は要らないと」
「宿の主人に借金があるんだろ? それを払っておけ。ラックが私からお金を受け取らない。となると、その主人は何時までも借金を返せないだろ」
「そうですけど……」
「はぁ……ラック」
ミリアさんは大きなため息をつく。
「いいか、君の能力を私は買っているんだ、君がお金を受け取らない。というのであれば、補助魔法を教えてくれた師も貶す事になる。それでもいいなら金貨を引っ込めよう」
「あっ……」
そうか。
そういう考えは気づかなかった。
僕は師匠から教わって卒業したんだ。その僕が補助魔法をけなせば、それを使っていた師すら貶す事になるのか。
「う、受け取ります」
「よし、それがいい」
「ママ! もどりま……あっラックさん。元気だすんですわ、人間のはよくしりませんが、凄いと思いますわよ」
「な、何を!? 何がっ!?」
「何って…………覚えてないならいいですわ」
耳が前後左右に動いていて忙しそうだ。
「あの!」
「何だ?」
「どうされましでしょうか?」
僕が叫ぶと二人とも手を止めて僕を見てくる。
そりゃそうか、呼んだのだから。
「もしかして酔って何かしちゃいましたか? グィン達にもお前は酒が弱いからもう飲むな。と言われてまして……。
逆に師匠からは君は常に飲んでいたほうが良いなって……」
「何も……もう、忘れろ。私も忘れるから」
「そうですわ。何でもありません事ですわ」
…………怖い。
うん。もう絶対お酒は飲まない!
近くのクローゼットを開けると、布の服が何着がかけてあった。サイズを確認してそれを着る。
「クアッツル」
「なんですの?」
「近くの村……は駄目だな。街まで行きたいんだけど……馬車とかないよね?」
御者の人が来るまであと4日ほどある。
その時でも良いんだけど、先にお金を宿の主人あてに送金したいからだ。
村には郵送する手段が少ない。
大きな街に行けば冒険者ギルドもあり送金も大丈夫だ。
本来は数日後に帰ればいいんだけどミリアさんの足が治る。というか治らなくてももう少し魔力を流しておきたいのもある。
「ありますわよ。里に」
「え、本当!? 貸して欲しいんだけど」
「ほう……ラック、君は馬に乗れるのか」
「乗れませんよ? だから馬車を」
冒険者だからだって全員が馬に乗れるわけじゃない。
僕達のパーティーの移動は基本馬車だし、御者はツヴァイが先導してやってくれていた。
「てっきり馬に乗るのかと……」
「それですわ! それだったらわたくしも合法的に街に行けますわっ!」
エルフに法があるのかしらないけど、クアッツルは突然に嬉しそうに叫んだ。
クアッツルは直ぐにミリアさんを見始める。
「ママ! ママって馬車の操縦はできますの?」
「御者か……上手くは無いが一応は教わっている。緊急時に隊を動かさないといけないからな」
「本来は人間に貸してはいけない馬車なんですけど、今回はお爺様の約束もありますし、きっと大丈夫ですわ!」
隊? なんだろミリアさんって商隊にでもいたのかな?
やっぱり盗賊とか?
「そうと決まれば里に戻りますわ」
「何も急がなくても朝食ぐらいだべていけば……」
「そうだな。クアッツル」
「そ、そうですわね。借りれたとしても午後になりますでしょうし」
3人で朝食をとる。
他愛もない会話で、ふと眼尻に涙が浮かんだ。
「ど、どうした」
「嫌いな物でも入っていたんですの!? 我慢して食べた方がいいですわよ」
「いや、こういう食事は久しぶりだなって思ったら自然と」
ついこないだまでは、朝食といっても各自自由にとり、何か大きなクエストを完了した時に酒場で打ち上げだったから、つい村での朝食を思い出してしまった。
「そういう時もあるだろう。所でクアッツル」
「はい、ママ」
「馬車を借りるにしろここまでどうやって運ぶ。隠れ里にあるのだろ? 私はまだここに来てからクアッツル以外のエルフを見たことが無い」
ミリアさんが強調していうと、クアッツルの耳がピコピコと動く。
観察してわかったけど、感情の揺れで耳が動くみたい。
「だ、大丈夫ですわ。人間が好きなエルフもいま、いますし……」
「そうか。クアッツルに迷惑がかかるならラックも諦めてくれよう」
「えっ!」
ミリアさんと、クアッツルが僕を見始めた。
「何だ? 断られても意地でも馬車を借りるのか?」
「いい人かもと思っていたのに、これだから人間は……ぺッ!」
「ちが、ちがいまして」
僕だって諦めるよ。
「心を読まれていたような感じで驚いてしまって……」
「…………」
「…………」
二人とも無言の後、ミリアさんは鼻で笑いだす。
それを見たクアッツルも耳をぴこぴこと動かしては、しょうがない人間ですね。と床に吐いた唾を掃除し始めた。
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