010.5 (第三者視点)副隊長ユーリー、補助魔法師ラックを訪ねる

「ここか。いるといいけどな……」



 宿の扉を開け中を確認する。

 暇そうなボロボロの宿で、いかにも筋トレが好きそうな中年男性が大きなかごを担いで走っていた。


 中に入っているのは黄ばんでいるがシーツだろう。

 その証拠に洗剤が入ったバケツも持っている。



「いらっしゃい、珍しい客だな」

「女性だからかな?」

「ああっ、一泊銀貨2枚。長期滞在なら30日で金貨3枚。食事は無し。希望があれば鍵は付ける」

「おや、ずいぶんと安いね」



 街の中心部などは一泊銀貨6枚で30日なら金貨15枚ぐらいだ。




「俺は人を見て決めるからな、嬢ちゃんは冒険者か何かだろ、面構えと空気が違う」



 なるほど、いい目を持っている。

 それに、人を見て決めると言われ相場より安ければ、つい泊りたくなる。



「悪いね。客ではないんだ。

 ここにラックという一級補助魔法がいると聞いて」

「何だ客じゃないのか補助魔法のラックが、どんな用事が知らないが今はいねえよ。悪いが、その、解るだろ? ペラペラと客の情報を喋るわけにはいかねえし。いるかいないか。で言えば居ない」



 私は腕を組んで考える。

 参ったな。


 ミリア元隊長、ううん。ミリア先輩かな怪我はあれはおそらくは怪我ではなく呪いの一種じゃないか。と私は考えている。


 そうであれば神官の類なんだけど、治らなかった。

 数年前から行方不明状態の補助魔法師サジェリ。彼女の最初で最後の弟子だったはずの補助魔法師ラックなら、ミリア先輩の呪いも治るかもと思ったけど。



「じゃぁ何日か泊れば?」

「泊ってくれるのはありがたいが、言えねえぞ? ラックが帰ってきたら、名前も知らない綺麗な女性が訪ねて来た。ぐらいは伝えれるな

 嬢ちゃんだって、知らない男が来て行先聞かれても困るだろうし、俺はいわないよ?」

「あら、失礼しました。名前はユーリー。アスカルラ騎士団第七部隊副隊長。あっこのレアメタルがその証」



 私の証明タグを見せると宿の主人が押し黙った。

 小さい声で私に話しかけてくる。



「もしかしてラックを逮捕しに来たのか? 悪い奴じゃないんだ……ちょっと頭が変な奴で……そんな大きな事をするような性格ではなくてな……」

「補助魔法師は比較的変な人間が多いんだ、その辺は大丈夫、逮捕じゃないから」

「そうなのか?」



 主人はほっとしたように声の張りが戻って来た。



「ええ。なる人もあまりいませんし」

「確かにな……俺も長い事宿の主人をしてるけど、聞いたのはアイツだけだ」

「個人的に仕事を頼みたかっただけですので、帰ってきたらこのメダルをアスカル騎士団の借り寮に。あなたを信用して預けますので」

「わかった」



 宿の主人に礼を言って外に出る、あれ以上仕事の邪魔をしてはいけないだろう。



 補助魔法師かぁ……本当はなる人がいないのでなく、なれる人がいないのだ。


 あれほど才能がいるのに、名前や使い方を知っている人間がおらず不遇されているクラスも珍しい。



「うちの隊でも、いや国で囲いたいぐらいだし、欲しいのよねぇ」

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