007 成り上がりへの道?・根底を変える素朴な疑問を突っ込む子

 ミリアさんが何度目の吹き飛ばし攻撃をうけ僕達の横に来ると肩で息をしている。


 こういう場合サーリアが回復魔法を唱えてグィンとツヴァイを回復させるんだけど、もちろんいない。



「ママ。も、もう帰りましょう。畑はそのわたくしも手伝いますし、この男も当然手伝うと思いますわ」

「え。僕も手伝うんですかっ」

「………………」

「………………」



 何だろうこの空気。


 二人が僕を見ては無言になってる。



 別に手伝わないわけじゃないし、土は食べたくないし、何だったら積極的に手伝うけど、いきなり頭数に入ってびっくりしただけで。



「すまないが、ラック。君の持っているポーションをくれないか?」

「あの、持ってませんけど」



 ミリアさんは僕の来ている服を見て落ち込み始めた。



「そうか。その服は私の服だったな」

「いえ最初から持ってなくて……」



 ミリアさんが黙っているとクアッツルが唾を吐きだした。



「ペッ! ペッ!」



 しかも複数回。

 さっきまでならミリアさんが注意してくれたのに、今はなぜか・・・注意もしない。きっと戦闘に集中しているんだろう。



「クアッツル、畑は再び作れよう。しかし、この放置したはぐれスライムはこの後どうなる?」

「はぐれですから……食事を求めて森の外に出るかと思いますわ」

「では、ここで退治しておかなくてはな」



 なるほど、森からでると最終的には街にいく。って事かな。



「あっそれだったら、どこかの軍に頼めばよくないですか? もしくは冒険者とか」

「…………悪いが、軍部に言われても集団暴走スタンピードでもない限り対応しないだろうな。冒険者ギルドだって被害が無ければ動かまい。君は冒険者のクエストで未知の森にいる魔物を一匹残らず殲滅せよ。などの依頼は見たことあるか?」

「無いです」



 そういう事だ。と、言うとボロボロの体で剣を握りなおした。

 僕にも出来る事があれば……。



「あっ!」

「ラック。どうした」

「いきなり声をあげないで下さいまし。役立たず・・・・なんですから。ペッ」

「いえ忘れてください」



 クアッツルが、僕の腰部分をいきなり叩いた。



「一応聞いておこう。はぐれスライムを誘い込む罠や、自ら囮になってその間に私が斬る。囮になっている間に私が爆発物でもしかけるでもいいぞ」

「なんで囮になる前提なんでしょうか……あの、補助魔法を。と思ったのですけど。今日もう二回かけてますし」

「わかった。かけろ」

「ミリアさん話聞いてました?」

「実はさっきの一撃で足がもう使い物にならなくてな、君達二人をどう逃がそうが考えていた所だ」

「ママ!?」



 ミリアはクアッツルの頭をぽんぽんと撫でると、心配するな。と力強く言う。

 


「え、いやでも……」

「複数回かけても限界を超えなければいいんだろ? 私の限界はこんなものじゃない。と思っている」

「そうなんですけど……」

「はいかいいえで答えろ!」

「は、はい!」



 眼鏡のずれを直し手を前に出す。

 横でクアッツルが物珍しそうに見ているのがちょっと恥ずかしい。



「あなた体内の魔力の流れがおかしいですわね……」

レギンスマナアップ魔力ブースト足レギンスマナアップ魔力ブースト足。ええっとマナアームアップ魔力ブースト腕ついでだからマナアーマーアップ魔力ブースト胴後は――マナ――」

「ラックまてまてまて!」

「え、はい」

「限界はない。と言ったが限界超えるとどうなるんだ? かけすぎと思わないのか?」

「壊れる。とか師匠から聞いた事しかないですし。こんな魔法ですから仲間も嫌がってでですね。でもいつもこっそりかけていたんです」



 これでも少しでもグィンやツヴァイ。サーリアの力になりたくてやっていた結果だ。

 でもあまり効いて無かったみたいで、もう少し努力しろってよく言われてたっけ。



「じゃぁ続きかけますね」

「ラックまて! その足も腕も軽くなったしこの辺で止めておこう。残り六体ぐらいならいけるだろう」

「そ、そうですか。でもよかった、いつも仲間にかけていても効果が見当たらなかったので」

「…………それは私の限界が遠すぎて幼稚だった。と言いたいのかな?」

「ち、ちがいます!」

「冗談だ、下がってろ」



 ミリアさんは素早く動くと一瞬で動き、はぐれスライムを三体倒した。



「あの……ラックさんと言いましたわね」



 残り三体を残したところでクアッツルが僕に話しかけてきた。

 何の用だろう。



「そうだよ」

「わたくしはエルフで人間の事はよくわからないのですけれども」



 なんだろう、種族まで持ちかけて来た。

 まさか僕に惚れたとか。パパと呼んでいいか聞かれたらどうしよう。



「な、なにかな」

「素朴な疑問ですわ、その補助魔法とは自身にかけれないのですか?」

「えっ!」

「えっ!」



 僕が驚くと、クアッツルも驚いて声をあげた。

 そんな事考えた事もなかった。

 

 師匠からも他人に唱えるもので自分には唱える事教わってないし。



「かけれないんじゃないかなぁ……いや、かけれるのかなぁ」



 かけれたとしても、どうだろう自分自身に効果あるかはわからない。



「では、ほんっとうにママがいないと役に立たない人なんですね」



 僕だって好きで役に立たないわけでは……いや、確かに今までサーリアに甘えていた部分はある。今だってミリアさんに甘えて、あっ。



「あ、ほら。ミリアさんが最後の一匹を倒したよ」




 ミリアさんはぐれスライムのコアに剣を刺した

 その剣をグイっと引き抜くとはぐれスライムの液体が辺りに飛び散った。


 そのとたんにミリアさんの動きがおかしくなり崩れ落ちた。



「ママっ!」



 クアッツルがミリアさんに向かって走る。途中のはぐれスライムの液体で足を滑らせて転んだ。

 僕も急いでミリアさんの側へ走ると、先につく。



「あがががあああああ、ああああ。あああうあうあうあ」

「大変だ! ミリアさんが『あがががしかいえないような』頭が馬鹿になった!」

「ああ! あああううあういいいあいいあいい!!」



 言葉にならない声でミリアさんは僕をにらみ付けるも、言葉の意味が解らないので僕に何もわからない。


 べとべとになったクアッツルが僕の横に来る。



「ママ!」

「た! ……いあ……い」

「痛い……そうですわねママ!」



 ミリアさんの言葉が止まり、本当に小さく首が縦に動く。



「多様はしてはいけませんけれども、自決用の痛み止めを持っていますわ、これを!」



 自決用って中々物騒な言葉が聞こえた。



「自決用って?」

「悪い人間に捕まった時に飲むものですわ。人間はエルフを見ると捕まえて拷問などをしますので、何百年も前から配られますのよ。これを飲んで舌を噛むのです。あなたの質問に答える時間は無くてよ! さぁママゆっくりと……」



 使用例がとてもグロイ。

 動物のフンみたいな黒い丸薬をミリアさんに飲ませると、ミリアさんの荒い息と奇声が静かになった。



「死ぬかと思った……私の両腕はついているか。ついているよな」

「ええ、全部ついてますけど」

「指先まで全身の骨が骨折した上に先ほどのスライムが前後左右に体の上を動くような痛みが永遠と続いた。今はクアッツルのおかけで痛みは無いが、指先一つも動かせん……」

「あーそれが限界なんですかね。勉強になりました」



 これは絶対に自分にはかけたくないな。



「さも他人事のように……いや数時間前に知り合った他人だったな……」

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