006.5 (第三者視点)辺境の森でエルフの少女は、ママと出会う

「ここが辺境って所か……落ちた者だな私も」



 人間の女の声が聞こえた。


 直ぐにその声の主を木々の上から見下ろす。



 珍しいわね人間の女だなんて、さて何しに来たのか分からないですけど、神聖な森から出て行ってもらいますわ。


 わたくしは華麗にジャンプすると両手を腰に当てて人間の女の前に出た。



「人間の女。ここはへんきゅう…………」

「…………」

「…………もう一回お願いしますわ!」

「わかった」



 軽く杖を付きながら歩いて来た女は、一度背中を見せ振り向いてくれた。

 なんて優しい人間なんでしょう。


 わたくしは木々によじ登り、人間の女を見下ろす。




「ここが辺境って所なのか」

「人間の女。ここは辺境ですわよ、魔物も多く用が無ければおかえりになるのがいいですわよ」

「用があるから来た。エルフの子供よ。悪いが暫くここで暮らさせてもらうよ」

「別にいいですけど、人間がここで暮らすには退屈と思いますけどね」

「どうかな……私はミリアだ、エルフにも名前はあるんだろ? 教えてくれないか?」



 礼儀も正しい。



「クアッツルと申しますわ」

「ありがとう、ミリアだ。別に好きに呼んでいい。悪いけど……足がこの通りでね。このあたりに万能の温泉があると聞いて暫くいるつもり。

 森に詳しいのなら案内して欲しいし入っては駄目な場所には入らないようにするよ」



 ふむふむ。

 そういわれると追い返すのも悪い気がしますわね。




「万能かはしりませんが……温泉でしたらご案内しましょう、聞いてくださいましこの森は庭みたいな物なんですわよ」



 なるべく歩きやすい道を選んだ方がよろしくってよね。

 暫く滞在するのでしょうか。


 最近は勝手にこの森に来て命を絶とうとする人間が多いから見回っているだけなんですけど……確か使っていない家が一軒ありましたわね。



「クアッツル」



 森の奥は狂暴なずう体ばっかり大きいファイヤリザードンがいますし、そこにさえ入らなければ森は安全ですし。


 ああ、さらに奥には温泉ゴブリンもいましたわね。話の通じない蛮族で困った所ですし。


 東側は里でも禁止されてますからわたくしでもわかりませんし……。



「クアッツル!」

「な、なんでございますの!? うるさいですわ」

「私を食べても美味しくないが、これがエルフ流の挨拶なのかい?」

「何がで……す……の……ファイアーリザードンの巣ですわ! 何でこんな場所に」

「道案内されたわけだが……」



 考え事をして道を間違えてしまいましたわ。


 ど、どどどどどどうしましょう!



「ち、違いますわ! 火を使う魔物はエルフの天敵! そんな場所に、いや……火事はいやああああああ。ママああああああ」



 嫌な事が頭に浮かぶ、燃える家、燃える同族達……。

 思いでの中でママが私を突き飛ばした。

 ママは火の中に残って……。



「本当に違うのか。では子供は泣くぐらいが丁度いい。後は大人が頑張る番さ」

「え」



 一瞬。

 一瞬だった……エルフは目がいいのに、それでも追うのが精いっぱい。


 ミリアが動くとファイヤーリザードンが倒れていく。それも魔石の部分を狙っていた。


 ミリアがこちらに振り向くと、驚きの顔でわたくしをみている。


 驚きたいのはわたくしのほうですわ……あれだけいた――。



「クアッツル! 後ろだ体を丸めろ!」

「え?」



 後ろを振り向いた。

 ファイヤーリザードンが大きな口を開けて火が見えていて……。




森の影からリザードンが大きな口を開けている、火だわ……。



「逃げてママあああああああああ」

「もってくれ私の足!」



 頭が優しく撫でられた。

 目を開けて顔をあげるとミリアの苦しそうな顔が見えた、それでもわたくしに笑顔を見せて頭を撫でてくれた。



「ママああああああ!」

「ママではないが……まぁいい好きに呼ぶといい」

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