006 君は戦わないのか? →はい →いいえ
辺境の森を足早に歩く。
先頭はクア……クアッツルと名乗ったエルフの子で次にミリアさん。最後に僕だ。
眼鏡が無いと危ないな。と思っていたら眼鏡だけはミリアさんが回収してくれていた。
ついでに服も回収しておいてくれればよかったのに。
と、まぁ文句は置いておいて倒す倒さないは後にしてはぐれスライムを見に行くことになった。
クアッツルが言うにははぐれスライムは畑を荒らしていて作物の被害が起きているとか。
僕の歩調にミリアが並ぶ。
「気を悪くしたらなら謝ろう。クアッツルは近所のエルフの子で、私の事を母の様に慕ってくれる」
先頭を歩いていたクアッツルの耳が上下に動くと、足を止め振り向いて来た。
「ママが謝る事ないですわ! このとても怪しい男が悪いのです、そもそもママの部屋で何を企んでいたのですやら、人間の男っていやらしいわ」
僕としては、子供に怒っても仕方がないし、愛想笑いするしかない。
くるりと一周するとクアッツルは再び歩き出す。
「意思表紙はしっかりしたほうが良いな、周りの人間に舐められるぞ」
「えっ!」
「…………いや、忘れてくれ。昔の癖でラックさんみたいな人間を見ると指導したくなるんだ」
いつの間にか僕の事はラックさんと呼ぶ事がわかった。
年上で強そうな人から敬称で呼ばれるのも慣れないし、ここは一つ。
「呼び捨てで結構です、その冒険者って言っても下の下ですから」
「わかった。では君はラック本当にはぐれスライム退治に付いてきてよかったのか?」
「いやまぁ、はい」
ミリアさんに睨まれた。
おそらく僕が煮え切らない返事をしたのだろう。と気づいたのは喋った後で……。
「す、すみ――」
「ラックが悪いわけじゃない、謝るな」
「はい……」
「ママが悪いわけじゃないですわ、こんな男をママの家に置いておいたら下着をあさるに決まってます! 縛って温泉に沈めとくのが一番でしたのに」
「あさらないし。いや、死ぬからね?」
「ええ、それが何か?」
ようは死ね。と言っているのはわざとだったか。
「クアッツル」
ミリアが声を大きくしてクアッツルの名前を言うと、クアッツルが小さく、ごめんなさい。と謝って来た。
別に怒ってはいないし、大丈夫なんだけど。
「それに、ラックだって、こんなおばさんの体や下着なんて興味がわかないだろう」
「無いわけでは」
「
「僕何かいいました?」
「…………何も」
なんだろう、ミリアさんとの物理的距離がちょっと広がった気がする。さらっと受け流していたので変な事行ったのかもしれない。
「そのクアッツルはエルフ……なんだよね?」
「それ以外に見えましたら目が腐ってますわね」
当たりがきついような。
嫌われるような事はしてないと思いたい。
「そのはぐれスライムって里? 村とかで狩らないの?」
「エルフは里に被害が無い場合は動きません事よ、そんな常識も知らないので?」
「そうなんですか?」
僕はミリアさんに質問した。
「なぜ私に聞く……しかし聞かれたからには応えよう。おおむねクアッツルの言う通りだ、エルフは自然に生き自然を大事にする。少々の被害などは被害と思わず自然の事と思うらしい。
クアッツル、これであっているか?」
「さすがママ! エルフよりエルフの事をお分かりに」
え、じゃぁクアッツルはなんで騒ぐんだろ。
「あっもしかしてクアッツルって変わり者?」
「ぺっ! エルフを変わり者扱いしないでい頂きたいですわ」
エルフじゃなくてクアッツル限定なんだけど、黙っておこう。
「とにかく、もう少しで畑につく。食料が無いと、次の行商人が来るまでに土を食べる羽目になるからな」
「ええ、食べれるんですか? 土って土ですよね」
「いいや飢えはしのげる」
しのぎたくない。
「うげっ」
畑が見える場所に行くと思わず声が出た。
「あのーあれは?」
「ですからはぐれスライムと」
「大きいな」
「ええ」
一人解っていないクアッツルは不思議そうな顔をしている。
一般的にスライムというと小さいのは、手の平から大きくても一般男性の腰ぐらいまでの大きさ。
体系はつぶれた球体型が多く、ぷよんぷよんとした透明な水風船型が多い。
弱点は大きくなれば外からでも見える魔石のコア。
小さくコアが見えなければ蒸発や踏みつぶせば散って消えていく。
「あれってサングラスですかね?」
「スライムに目は無いはずだが」
「お馬鹿さんにも説明してあげますわ。あのサングラスに見えるのは魔力の塊が固まったのです。ママには説明し忘れただけなのでご安心してくださいな」
もう見た目は、つっぱりコスプレをしたスライムだ。
そのはぐれスライムの群れがこっちを一斉に向いた。
「よし、ラック行くぞ!」
「えっ!?」
「ん?」
剣を構えたミリアさんが、僕を見て不思議そうな顔をしてきた。
「何変な顔をしている。倒すぞ? まさかスライム愛好家で倒すのが嫌ってわけじゃないだろうな?」
「どんな愛好家なんです……」
「多種多様なスライムを保護し、それを倒す人間が悪いだって襲い掛かってくる集団よ。では、いくぞ!」
ミリアさんが一歩前に出てはぐれスライムを斬り付け、その体の弾力で体ごと吹っ飛んだ。
「ママあああああああああ!」
クアッツルが叫ぶと、ミリアさんは僕の横へと剣を杖のようにして戻って来た。
「なんで加勢しないっ!」
「え、いや、あの……怖いですし。小さいスライムであれば近くの棒でも使って倒せるんですけど……」
「まて、冒険者だろ?」
「冒険者でも怖い者は怖いですし、僕って剣もろくに扱えないんですよね」
やっと振り回せると思った剣は希少価値の高い軽い魔法剣でグィンに持っていかれた。
「ああ! 去年植えたサクランピーチが!」
クアッツルの悲鳴が聞こえると、一口大の桃。サクランピーチの苗がはぐれスライムに食べられている。
「ちっ弱いんだったら後に下がっていてっ!」
「はいっ!」
「………………」
ミリアさんが一度僕を見た後はぐれスライムの群れに再び突っ込んでいった。
吹っ飛ばされそうになりながらも踏ん張り、あっ潰された。
体がスライムの体液でどろっとなったミリアさんが立ち上がる。
そこを別のはぐれスライムが体当たりをかました。
ミリアさんが吹き飛ばれてまた僕達の横まで吹っ飛んで来た。
「ママああああ、もう、もう畑はつくりなおします! だから逃げてましょう! ああっママが美味しいって言ってくれた芋エリアもっ!」
「泣くなクアッツル! ここは私が斬り開いて見せる!」
「が、がんばれー」
ミリアさんに声援を送ると、ミリアさんとクアッツルが黙って僕を見た。
「なんでしょう」
「何でもないですわ」
「何でもない、下がってろ」
「はい! もっと下がります」
ミリアさんが、口を大きく開けて吼えた。スライムのべとべとの体液がぬめっと滴ってちょっとだけ、ちょっとだけえっちにみえる。
今伝えたら怒られそうなので黙っておく。
ミリアさんの体が一瞬で消えた。
いや、突進……?
「すごい……」
「ママやっぱり綺麗……わたくしを助けてくれた時の様に流星の様に早い動き、でも、そのせいでママの足はもっと悪くなって……ああっ!」
ミリアさんの突きではぐれスライム一匹のコアが破壊されたのだろう。
水風船が破裂したようにはじけ飛んだ。
でもまだ六体はいる。
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