005 ママ!事件ですわよ。可愛いわたくしがお知らせします
「あっ…………これは、その、気持ちいい。かもしれないな」
「少し強くいきます」
「わかった……んっ」
僕はミリアさんの足を触りながら小さく
その度にミリアさんが変な声を出すのでドキドキしてしまいそうだ。
場所はミリアさんの住んでいる小屋で、何となくの誤解が解けた後、ミリアさんの足が痛みだした。と、いう事なのだ。
常人であれば一日以上持つはずなんだけど、あの歩くのに苦しそうな顔を見た後では補助魔法をかける。という選択肢しかないかな。
「と、言うわけでおしまいです」
「…………もう終わりなのか。いや、助かった。足痛みも軽くなり足が自由に動く感じがする」
「どうも……あくまで補助魔法ですので、自身の肉体の限界以上は力は出ませんし、定期的に行えば走るぐらいはできると思います」
師匠から教わった説明が口からすらすらでる。
あくまで補助魔法であってこの魔法は回復魔法じゃないしな。という師匠の顔が思い浮かんだ。
「何にせよ杖無しで歩けるのであれば気分がいい」
「あとは……」
「まだ説明があるのか?」
「ええまぁ、限界を引き出す魔法なんですけど、その人物の限界を超えすぎると体に負荷がかかりすぎて逆に壊れる場合が……あっ! だ、大丈夫です。今回は僕の魔力を少なくしてますし、負担になるような事はしてないです」
たぶん。
そもそも限界が何所までなのか僕にはわからない。
師匠に聞いた事はあるが、師匠も人によりけりで知らん。と軽い感じで返された。
「その辺は信じるしかないか……。でいくら必要だ」
「はい?」
「いくらだ。と言っているんだ」
「ああっお金!」
思わずポンッと音を立てて手を叩いてしまった。
「そうだ。これでも高給取り、いや今は何もしてないが貯えはある。一般的なヒーラーの相場も知っているつもりだ。値段を言え」
言え! と言われても……善意だし。
そういえば一般的なヒーラーの相場は僕は知らない。
よくサーリアが他のパーティーに頼まれて魔法を唱えた後に、グィルとツヴァイがそのパーティーに向かって行ったけど、徴収していたのだろうか。
「相場を知られていると知ったら、だんまりか? 仕方がない。金貨十枚。どうだ?」
「ええええええええええええ!」
「叫ぶな、煩い」
「はっはい!」
金貨十枚って十枚だよね? 宿にいた時、泊っているお祖母ちゃんの肩こりを治した時は銀貨一枚だよ!?
宿の主人の腰痛をやわらげた時は夕食に林檎のかけらが一つ増えただけだし。
「そ、そんな貰えません!」
「ちっ!」
舌打ちは辞めて欲しい、怖いんだって本当に。
「見かけによらず交渉術を使うんだな、二十枚だ。これで文句はないだろ?」
「ぶええええええええっ!」
「煩い」
「す、すみません」
増えた。
増えたよっ!
「払う代わりに、その迷惑な願いと思うが、もう少しこの足に補助魔法をかけて欲しい。それ込の値段だ、それとも何か予定はあるのか?」
「無いです」
「そこははっきり意思表示するんだな」
イジメられてるのだろうか……。
でも、予定はないし……ここに十日ぐらいのんびりして、後は別の街で冒険者……出来るのかな。
とにかく僕だって何もしないで暮らせるならしたいけど、そうもいかない。
宿の主人に借金も返してないし、宿の従業員になるのであれば早い方がいいだろうし……とはいえ冒険者しかないきもする。
他の街で登録はしても、あんなに居心地のいいパーティーはもうないかもしれない。
だって荷物持つぐらいしか役に立たない僕をダンジョンの最奥部まで連れっててくれてたし。
ドン。とテーブルが軽く叩かれた。
前を向くと不機嫌なミリアさんの顔が僕を見ている。
「返答」
「すみません、考え事を、ええと考えた結果お金は要らないです」
「ほう、金よりもあれか、体が欲しいのか……? こんな醜い体でいいとは物好きな奴だな」
ミリアさんは服を抜きだそうとしたので慌てて手で止める。
「違います」
「ふ……こんな体じゃ価値はないか、すまなかったな」
ミリアさんのテンションが一気に暗くなった。
元気な足でテーブルの脚を小さく蹴ってるみたいだ。
コンコンコンコンテーブルが揺れ始めている。
なんだろう、これは僕を誘っているのだろうか。
「それも違います! すごく綺麗でした」
傷はあったけど、それがどうした。というぐらいに綺麗だった。
戦いの女神、そういうイメージが僕の頭の中で浮かび思い出す。
「そ、そうか……ありがとう……」
「っいえ……」
お互いに何故か沈黙してしまった。
「ママ大変!!」
ミリアさんの家の扉が叫び声とともに開いた。女の子が入って来てミリアさんの胸に飛び込んだ。
「ま……ま……?」
それはまずい。
ママと子供がいるという事はパパがいるからだ。
知らない男が家に入ってベタベタと妻の体を触っていては不味いだろう、しかも裸も見たのだ。
こんな傷だらけのミリアさんの旦那はきっとジャイアントベアーぐらいな体系できっと顔にも傷が何本もあるような男に違いない。
仮に僕が先ほどの誘いに乗っていたら、そんなパパから『俺の妻になにしてくれてんじゃ?』と言われたら命がいくつあっても足りないし。
金を払えと言われても、完全に文無しだ。
後は奴隷のように働いて返すしかない。
「客の前だよ、クアッツル」
たしなめるように女の子にいうと、女の子は僕を見て小さいスカートを摘まむ。
「あら、お初にお目にかかります。エルフのクアッツルと申しますわ」
「ど、どうもラックです…………エルフ!? ママってあのミリアさん人間ですよね、その場合はハーフエルフでは」
よく見ると耳が長い。
エルフのクアッツルは僕に微笑むと床にペっ! と唾を吐いた。
「ええっ……」
「クアッツル、ここは私の家だ」
だよね。
突然唾を吐くとか、道でもしないよ。
「もしかして、エルフの挨拶って唾を吐く事……ごめん。僕も急いで吐くよ。かぁあああああっ」
ドン! とテーブルが今日いちで叩かれた。
「ここは私の家だぞ!」
「ええ、ですから。里に入っては里の掟にしたがとうと……」
「唾を吐くな! と言っているんだ!」
ミリアさんが怒鳴ると、エルフの少女が耳を垂れながら謝ってきた。
「ご、ごめんなさいママ。この人間が喧嘩を売ってきましたので買ってしんぜようと」
「だ、そうだ。冗談に付き合うな」
「はぁ」
冗談とか知らないし――。
悲し気な顔のエルフの少女はハンカチを出すと床に吐いた唾を拭きとり始めた。
「クアッツルは近所の子だ、なぜか私の事をママと呼んでな……で、何があった?」
「あっそう! ママ逃げて。はぐれスライムが暴れてるの」
「倒せばいいんじゃ?」
僕が案をだすと、クアッツルの耳が上下動くと次に睨まれた。
「倒せる物なら倒してますわよ! ママ。なんなのですかっこの人間は」
「…………なんなんだろうな本当に」
「…………なんなんでしょうね本当に」
僕とミリアさんの言葉がかぶった。
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