004 貴女の名前と僕の名前セカンドコンタクト
あちこちが痛い。
その痛みで目が覚めた。
先ほどまで僕がここに来る途中での夢を見た気がする、でも今の僕に見えるのは木目の天井。
体は暖かく女性のいい香りがついた毛布が掛けられていた。
どこかの部屋なのはほぼ確定していてベッドから見える机には杖が何本も立てかけられていた。
「起きたか?」
「へっ?」
声のする方へ首を曲げると首がグギっと音を立てた、余りの痛みで毛布へとうずくまる。
「で、この私に何をした」
「いや、ちょっと待ってくださいっ! なんでっ僕ははだ――」
僕の今の恰好は裸だ。
もちろん女性のほうは服を着ていて僕だけが裸で毛布に包まれている。
パンツは!? 借りたお金で買った厚手の布の服セットも見当たらない。
「何が目的だ? 黙っているつもりが? それともセシリアの差し金か?」
まずセシリアが誰かわからない。
この女性の名前もわからないし、年齢は僕よりも上に見えダボっとした服を着ている。
髪は白髪で日に焼けた部分と白い部分が明確に別れていてちょっと目のやり場に困る。
まずは服が欲しいです。はい。
「おい、こっち見て話せ!」
「は、はいっ! ええっと服です!」
「はぁ…………やはり副隊長のセシリアの差し金だったか……帰れ!」
「どこに!」
一応は帰りのチケットもあるけど馬車は十日後って言っていたし、徒歩で帰れる距離じゃない。
それに全裸だ。
僕が裸を見てしまった女性は顔に手を当てて僕を見返してきた。
「いや、まて……帰るな。お前が私にした何かを教えろ」
何ってもう……謝るしかない。
「裸を見てすみませんでした!」
僕は相手に土下座をした。もちろん毛布で体を包んでだ。
サーリアに謝る時はいつも土下座をしていたようなきがする。
「裸を見て……? 裸を見せればいいのか? そうすると足が動くようになるのか? いいだろう。見せるだけであれば戦場では水浴びを覗かれる事もある」
白い髪の女性は上着を脱ぐとすぐにズボンも脱ぎだした。
「ええっ!?」
「む…………その驚きは、やはり下着姿ではだめなのか、仕方がない……これで満足か?」
下着まで脱ぎだして僕の前に仁王立ちになった。
「おい、いつまで土下座してるんだ? さっきはしてなかっただろ? おい! 毛布をかぶるな!」
見たいけど凄い見たいけど見てはいけない気がする。
それに僕は今裸で絶対に見せるわけには行かない。
「教えろ! どうやって私の
「へっ!? あっそっち……?」
僕が毛布から顔を出した瞬間につま先が見えたかと思うと頭を蹴られた。
仰向けになり背中は毛布が守ってくれた。
女性がひどく軽蔑したような顔で僕を見つめると、横にある棚から布、いや服を僕のお腹部分へ投げてよこしてくれた。
「そういえば、お前も裸だったな」
「あの、話しますから服を着てくれませんか……その、はい……」
「わかった。お互いに服を着たら話してもらうぞ。セシリアがお前を私の前に送り込んだ理由も一緒にだ」
多分わかってない。
お互い勘違いがあるような気がする……。
ふんわりとセッケンのいい匂いがするシャツとズボンをはく。
下半身はパンツはいていなくて変な解放感でゾクっとしそうだ。
平常心。
平常心。
何度か深呼吸をしてゆっくりと歩く、テーブル前の椅子には先に衣服を着た女性が座り僕をにらみ付けている。
なんで……あ、この女性の服を着たからかな。
「お、お待たせしました。あのこの服は洗って……」
「返すな。男が着た服を返されても燃やすだけだ」
「男性嫌いそうな顔してますもんね」
ドン! と突然に大きな音が鳴る。
白い髪の女性がテーブルを叩きテーブルが揺れた。
怖い。
怖いです。
「お前はこの私が女が好きそうな女に見えるのか?」
「はい! じゃない、ち、違います」
つい本音がポロっと出た。
「私はお前と
「それはこまる」
いやでも本当に困るのは最初だけかもしれない。
やった事はないけど僕の補助魔法は一応は左右どちらの手からも出せる。
ご飯を食べるのでも腕は一本あれば足りるには足りるからなぁ……。
「おい!」
ドンと二回目の音が聞こえて背筋が伸びた。
「はい! 補助魔法です! それだけです」
「補助ま……ほう……補助魔法!」
「はいそうです、それです!」
やっと納得してくれた。
「なわけあるか!」
してくれてない!
「本当、本当なんです。あっもしかして補助魔法を知らない。ですよね。基本的には足を速くしたり、腕力をあげたり、基礎能力を短時間あげ――」
「補助魔法を知らないわけじゃない! 話を聞け!」
先に僕の話を聞いてほしい。
と、は口が裂けても言えないほど怒っていらっしゃる。
「補助魔法は一時的に能力をあげる事ぐらい知ってる! お前のはまだ切れてないんだぞ! 何かもっと凄い奴じゃないのか!?」
「あっそれだったら、僕のは人によりますけど一日前後効くみたいですよ。宿の主人さんは、僕に冒険者を辞めて肩こりほぐし屋をやればいいって言ってましたし」
女性の唇がちょっとピクピクとしているのが見えた。
ど、怒鳴られるのだろうか。
正直に言ったのに怒鳴られたくないなぁ。
「よーし、そこは百歩譲ってやろう。お前とセシリアとの関係はなんだ」
「ええっと……」
「弟か? あのセシリアにこんなうじうじした弟がいるとは思えないが、確か弟は多いと聞いた事ある」
僕は聞いた事がない。
知らない人だし。
「まったく関係なくてですね」
「関係ない? では誰からの嫌がらせだ? いや違うな、足の事は礼を言わなければならない」
白い髪の女性は僕に慌てて頭を下げて来た。
その拍子にシャツの間から谷間が見えてしまった。
「なぜ、横を向いてる?」
「な、なんでもないです」
「で、結局お前は何者なんだ?」
「ラックです」
ドン! とテーブルが叩かれた。
ひいいいいい!
「私は名前を聞いているんじゃなくて……だ……な……」
「はぁ」
「いや……私とした事が名乗るべき名前を忘れていたようだ、謝ろう。ミリアだ」
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