003.5 (第三者視点)辺境けいゆの旅の御者(53才)の苦悩
にしても、どうしたものか。
御者を三十年以上していると、乗っている客が何を求めて馬車に乗るのがわかってくる。
新しい街に行きたい。
恋人に会いたい。
親に会いに行きたい。
などだ。
しかし今回の客は仲間の中でも噂になっている死神。と言う奴だ。
死神といってもわたし達御者の命を刈り取るわけじゃないし死神に魅入られた客というのか、曖昧に言うと世の中から消えたい願望の客だ。
こういう客は失恋。借金。奴隷など訳アリが多い。
生きていてもしょうがない、そう感じられる気配をだし、我々御者はその人間を運ぶ。
『では御者に罪はないのか?』
わたしの若い頃、一人の男性にそういわれた事がある。
あれはわたしが、女性を朝焼けが綺麗な場所に送り届けた後だ。
街に戻ったわたしは一人の男性にそう問われた、その男性と一緒に女性を送った場所に戻ると……もう、あのような事は少しでも避けたい。
これは今からでも街に戻るべきか? しかし、そういう人間は本当の悩みを打ち明けてくれなく、街に戻っても無駄になる。
わたしの動かす馬車にはとうとうそのその死神、いや眼鏡をかけた黒髪の青年しかいなくなる。
途中の昼休憩で、今日も話しかけてみた。
「ラックさんと言いましたね……辺境へは何しに、いや数日前も聞きましたな……物覚えが悪く申し訳ない」
「大丈夫ですよ。何度でも説明しますのでチケットを貰ったのでゆっくり温泉でもつかろうかと」
何度も同じ答えが返ってくる。
ここで何か違う事でも言えば強引に街へ戻す事も考えれたのに。
「温泉ですか……しっていますか? 森の奥は魔物がわんさかでるらしいですよ」
「らしいですね、でも温泉周りは安全だって、魔物なんて
「ええ、
もしもの場合はこの青年の遺品を誰かに届けなければ……。
「時に……この場所に行く事はだれかに?」
「ええ、宿のマスターがくれたんです。その、僕はやっぱりサーリアに振られたたんですかね?」
サーリア、恐らくは女性の名前だろう。
「恋人がおあり、いや、恋人とお別れに?」
「ええ」
失恋か。
これはやっかいだ。もっと情報を聞き出し彼の心の傷を埋めなければ。
「その恋人とは将来の結婚を……?」
「いえ」
「なるほど、肉体関係だけと」
「いえ、肉体関係もまだ」
ん? 何かおかしい。
「で、では両親が決めた相手だったと、それであれば――」
「あっ僕の方は親はいませんし、彼女のほうの親からも決められてません」
ますますおかしい。恋人……だよな?
「…………失礼ですが、手を握ってデートなどは」
「デートぐらいはありますよ、ただ手を握っては……無いですねぇ」
それはもう恋人じゃない。
完全なス……スラ、いやストーカーという奴だ。
最悪の場合
これは振られたというよりは、付き合っていたと思い込んでる?
しかし、若い命を無駄に散らすのは後味が良くない。
「なに、星の数ほど男がいるなら、その逆もしかり。君は確か冒険者なんだろ?」
「一応はそうですね」
「一応も何も胸を張るべきだ。冒険者は持てるし金回りもいい。と言われるからな、君も辺境でゆっくりしたら稼ぐ事をしなさい」
「はぁ」
何とも気の抜けた返事だ。
しかし、これで少しでも生きる目的が見つかればわたしとしては嬉しい事は無い。
「仲間だって応援してくれるはずだ、冒険者なら仲間はいるんだろ?」
「グィンとツヴァイにとって僕は仲間だったんでしょうか?」
この青年は仲間にも裏切られたのかっ!
なんて不幸なんだ。
確かにそれほど
「そ、そうだ。仲間という言葉は後から付いてくるものだ。君の人生は長い。一度や二度のどん底から這い上がってくるのが冒険者だろ?」
「え。まぁ……あの別にどん底というわけでは……確かにサーリアの事を考えて三日ほど泣きましたけど……僕が不甲斐ないのが、原因で――」
「もういい君は喋るなっ!」
「だっ黙ります」
「別に怒っているわけじゃないんだ……」
つい怒鳴ってしまった。
にしても最近の若者は覇気がない。
まだ時間はあるんだ、たっぷりと更生させなくては。
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