002 補助魔法士ラック、ギルドからの仕打ち
ヘックション!
誰かかクシャミをして、その声で目が覚めた。
誰でもない自分の声だったのを気付いてちょっと落ち込む。
空は既に青く、体の関節が痛い。
初めて野宿したような時の痛みで周りを見ると僕を見下ろしていた人間が足早に離れていった。
うん、完全に野宿だこれ。
酒場と宿の間の路地裏で寝ていたらしく、なぜか僕の恰好はパンツ一枚だ。
慌ててズボンと上着を探すと、あきらかに僕のじゃない服しかない。
だぼだぼのズボンをはいてベルトを締める、上着も来て慌てて路地裏からでた。
「サーリアに心配させる前に宿にもど…………」
言いかけて言葉が止まった。
「そうだ、パーティー抜けたんだ…………」
心配してくれる仲間はもういなくて……わかってはいるんだ。
サーリアやグィンに騙された。それでも彼らと一緒に冒険した日々は嫌な事もあったけど、ほんの少し良い事の方が多かった。
「恨めないよね……それに、好きだったんだよ……そうだ、宿にいかないと」
宿には荷物がある。
何時も泊っている宿につくと、馴染の宿の主人が仁王立ちしてきた。
「お、おはよう」
「ああ、いい朝だな。悪いがお前の荷物は全部売ったぞ」
「へあっ!?」
突然の事で驚きの声しかでない。
「宿代がたまっていただろ? グィンは昨夜のうちに別の高級宿に移っていったよ。こんなボロ宿じゃ駄目なんだとさ。それとな今までの宿代はおまえの荷物で払ってくれ。と言ってな」
「そ、そんな……結構な荷物ありましたよね!?」
今まで冒険で稼いだ誰も使わない武器やアイテムなどを僕がまとめて管理していた。
置く場所も無いので僕の部屋にしまっていたのだ。
「ああ。だから売った。
大体だな、お前らがダンジョンにこもるのに宿代は後払いだったぞ。
ちょっとダンジョンで名声をえたら、俺の宿を馬鹿にしてさっさと高い所いくだ? ふざけんな。お前さんの補助魔法は助かったよ? 腰や肩こりが良くなった。だがそれだけだ」
あまりにもボロクソ言われて少し落ち込む。
仕方がないじゃないか、僕にはそれしかできなかったんだから。足をちょっと速くする、筋力をちょっと強くする、腰痛をやわらげる。そういうのが補助魔法で、僕はそれぐらいしか出来なくて。
「っと、言い過ぎたな。そこまで落ち込むな。でもなぁラック考えても見ろ、冒険者なんて何時、この世から居なくなるかわからん商売だろ? 期日までに戻ってこない場合は荷物は宿の物、そういう約束で部屋を貸したんだ。お前さえよかったら宿の従業員になるか?」
僕が宿の従業員? サーリアに誘われて村を出て5年、サーリアが希少価値の高いヒーラーになってから僕も魔法を勉強してやっと魔法を覚えたけど、仕える魔法が補助魔法。
いてもいなくてもいいような仲間で……宿の従業員。
「あの、皆はまだこの街にいるんですよね?」
「知らんよ、いるんじゃないか?」
「そうですよね……」
「たく。腐っても冒険者ってか、福引で当てた辺境行きのチケットがある、珍しく温泉があるらしくてな、お前にやる! 気分を変えてから返事を聞かせてくれ」
え? いや、別に従業員でもいいかなって思っていたし、別に否定はしてないです。
ああ、うん。言い出せないよねこの空気じゃ。
「あっ!」
「どうした」
「お金貸してください……チケットがあっても無一文でして」
宿の主人は僕の頭からつま先までを見て、わかった。と答えてくれた。
奥に行くと、すぐに革袋を手渡してくれる。
「他の冒険者には内緒にしとけよ。たっく冒険者なら仕事して稼げ、と言いたいがラックだからな……色々と話は聞いてるしお前がサーリアにおっと」
「えっサーリアがどうしたんですか!?」
「………………聞き間違いじゃねえのか? さっさと辺境でもいって気分代えて来い!」
宿を強引に追い出された僕は途方に暮れた。
革袋の中には金貨が3枚。
今の僕には大金で、でも三日ぐらいしか持ちそうもない。後は辺境行のチケット。
チケットは往復になっており道中の食事も賄ってもらえるという大変お得なチケットっぽい。
買うといくらになるのか金貨十枚ぐらい要りそうだなぁ。
せめて何かで返したい。
僕に出来る事……『腐っても冒険者か……』……そうだ! 僕は冒険者だ。
僕が活躍すればサーリアだって僕を認め……『結婚して跡取りを作らないとな……』『ラックとは幼馴染なだけ……』『もう会う事もあるまい』
慌てて首をふる。
仕事をしてから、辺境に行ったっていい。
辺境へは数日遅れるけど宿の主人に三枚を直ぐに返して、自分で稼い金で行った方がいいに決まってる。
扉を開けると、見知った人達が僕の顔をみては顔をそむけた。なんでだろう?
ギルドの依頼掲示板からD級依頼の紙を何枚もひっぺがした、野草取り、ドブの掃除、肩もみ、一角兎狩り。
この際金額なんてどうでもいい、とにかく仕事をするんだ。
カウンターに紙を持っていく。
「これ全部受けたい」
「出来ません」
「えっ!?」
そうか、そうだよね。未達成や独り占めを防ぐために個人のギルド仕事は一人二件までだ。
「二件までだったね。ええっと。じゃぁこれとこれ」
「だから出来ません」
「え。でも規約は……」
他には何も無いはずだ。
でも、ギルド職員は分厚い本を出してページを開いて見せてくれる。
「冒険者規約第七の六条。金銭のトラブルなどにより信用が損なわれた者は一時的にクエスト受注を制限される場合があります。これですね、何に使かったがは知りませんが、銀行ギルドよりあなたの名前で借金の未返済があった。との事です。
現在は返済されているようですが、この街では二十日間のクエストは無理です。さて込んでいるので場所を避けてください」
後ろの冒険者に肩を掴まれて強引に場所を取られた。
『もう会う事もあるまい』鳥型亜人のツヴァイの言葉がもう一度頭に響いた。
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