001 補助魔法士ラック、パーティー幼馴染から追放される

「ラック。お前をパーティーから追放する」



 そう言ったのはリーダーのグィンで、場所は酒場だ。

 ずれた眼鏡を直しては思わずグィンの他に二人、幼馴染のサーリサと、鳥型亜人のツヴァイも見てしまった。



「ラック、話しているのは俺だこっちを向け。サーリサがいくらお前の幼馴染だからと言って特別な事はしない。

 お前の髪が黒くて地味とか、魔力だけはあるのに補助魔法しか使えない人材だからとかでもない。

 俺みたいに少ない魔力を使ってやっと魔法を打てる魔法剣士としてパーティーを引っ張っているのに、お前は宿屋で爺さん婆さん相手に腰痛を治しているからでもない。

 ついでに視力も悪く近眼なのも違う。

 さらに言うと、俺はイジメは嫌いだからな、ただだ!

 ラック……お前が使い込んだ100万ゴールド・・・・・・・・・これは見逃せない」

「えっえっ!?」



 グィンがテーブルを叩くと僕の眼鏡がまだずれた。

 突然の話で頭が追い付かない。


 ずれた眼鏡を直しては思い起こす。

 幼馴染のサーリサと村を出て数年、お互いに冒険者の資格を取り、ランクを上げて、僕は精一杯勉強して補助魔法を覚え、パーティーにも一緒に入って一年だ。


 最近は高難易度ダンジョンもクリアして……うん、やっぱり身に覚えがない。


 それに来月は僕の誕生日。


 そう僕とサーリア・・・の誕生日でお互いに19才になる。

 小さい時から結婚しようね。と約束していて……そんなサーリアの顔を見ると酷く残念そうな顔だ。



「あれ……サーリア」

「何かしら?」



 僕はサーリアが付けているブレスレットに注目した。確か魔法具店で見た不老のブレスレットだ。なんでも老化を押さえるらしく60万ゴールドはしていた。

 とても僕個人で買える物じゃないし、サーリアの貯金だってないとは聞いた。



「ラック殿。その腰にある剣と先日攻略したダンジョンから出た魔道具、確か売れば査定額は80万ゴールドだったと覚えておりますな」

「あ、うん……たしかそれぐらい、パーティーで使えない僕にグィンや皆が戦力強化に。とくれたんだよね、結局使えなかったけど…………あれ、ツヴァイ?」

「何でござろう?」

「その煙草……」

「これでござるか? サーリア殿から頂いでござる」



 鳥型亜人のツヴァイが口にくわえているのは、燃え尽きない煙草だ。

 火をつけて吸っても無くならず、これも確か20万はした……無類の煙草マニアのツヴァイが何時かは欲しいでござるのう。と店前で話していた記憶がある。



「ラック、今はツヴァイの事も気にするな。それとラックの貯金。確か30万はあったよな」

「なんで金額を、それはサーリアとの結婚資金に…………」

「どうした?」

「そのネックレス、いやネックレスに繋がっている指輪は」



 グィンの首にはシルバーチェーンのネックレスがかかっていて、先端に金の指輪が通されていた。


 まったく同じ物がサーリアの首にもかかっている。



「俺もいい歳だ。いつまでも冒険者ごっごなんて出来ないからな、A級試験に合格したし結婚して跡取りを作らないとな」



 グィンの実家は、地方都市の貴族と聞いた事がある。



「おめでとう。知らなかったよグィンに恋人が入ただなんて。今度紹介して欲しいな、どんな人だろ」

「どんな人か……サーリアしかいないだろ。じゃっそういう事でな、追放だ」

「は?」



 グィルがそう言うと、三人が席を立った。

 ダンジョン攻略祝勝会だったはずなのに、誰一人食事に手をつけなかった。


 椅子に立てかけていた僕の剣はグィルが手に取り、ついでにマントも持っていくでござる。と、ツヴァイが手に取った。

 最後に僕が付き合っている・・・・・・・思っていた・・・・・幼馴染のサーリアは宿の部屋に置いてあったはずの僕のカバンを持っていた。



「無一文じゃ飯代も困るだろう? ここの勘定は既に済ませてある、食べたら好きな所にでも行ってくれ……行く当てがあればな」

「さらばでござる、もう会う事もあるまい」

「ラック。冒険者辞めて村に戻ってもある事ない事言いふらさないでよ? ラックとは幼馴染なだけ・・なんだから」



 三人が席から立つと僕は茫然と料理を眺めていた。


 僕の耳にサーリアの笑い声が聞こえた。

 すぐに扉付近を見るとサーリアがグィルの腕を抱きつくように絡ませて歩いている。

 僕とは結婚するまで恥ずかしいから。と手すら繋いで歩いていなかったのに……


 自然と涙が出る。


 いや、ここは追いかけて絶対に誤解を解かないと。

 理不尽だ、追い出すだけために仕組まれたんだ。

 


 立ち上がる前に僕のテーブルに特大エール麦酒がドンと置かれた。

 祝勝会と言っても、こんなに大きいエールは頼んでいない。


 顔をあげると、強面の主人がいて僕の背中を何度もたたいてくれた。



「飲め!」

「え。いや、僕飲めないんですけど……それよりも後を」

「後を追いかけてどうする! いいから飲め!」

「がぼがぼぼぼぼぼぼぼ!」



 胃の中にアルコールが一気に入ってくる、天井が回りだし、足元がふらふらする。

 すぐにでも追いかけて話を……話ってなんだっけ……。

 体が熱い。


 暑かったら脱げばいいじゃないかっ!



「いい飲みっぷりだな、二杯目だ!」

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