神隠し 其ノ伍
前回の簡単すぎるあらすじ。凪と天羽さんと3人で怪奇現象について話したあと、凪が2人で話したいというので1度外に出て話すことになった。
「うぅ、寒いな。」
時刻は23時過ぎ、4月になり季節は春とはいえやはり夜は冷える。
「それで、2人で話したいことって?」
「あなた、解ってて聞いているでしょ?天羽さんの怪奇現象の解決方法のことよ。」
「へえ、凪はもう思いついたのか?いや、分かったのか?」
「分かるわけないでしょ。私はあなたより怪奇現象にちょっとだけ詳しいだけで、専門家という訳ではないのだから。」
「そうか、でも、辿り着くまでは別の道でも辿り着いた先は変わらない。だろ?」
「ええ、そうね。私たちみたいな例外はそうそういないと思うわ。でも、そのやり方は、やっぱり。」
「いいんだよ、僕はそのやり方について辞めようとは思わないよ。大丈夫、僕には凪がいるから。」
「、、、そうなのだけれでも。私が心配してるのは、そのやり方はあなたがとても救われないじゃない。」
「それも、答えは同じだよ。このやり方は僕たちにとっても相手にとっても都合がいいだろ?大丈夫、それについても、凪がいるから。」
「ええ、そうね。あなたは私がいる限り、私はあなたがいる限り、私たちの存在は消えることは無い。」
「ああ、だから、先ず僕たちが探すべきなのは天羽さんの怪奇現象の起こった理由だな。本人にとってトラウマのような、記憶がその理由になるはずなんだけど。」
「それは確かにそうね。こればかりは、本人が見つけなければならないことだから、私たちは手伝うことは出来ても、直接解決できることではないわ。」
「まあ、これは自覚の問題だから。人間はいやな記憶は蓋をすることもあるから、なかなか思い出せないというか、自覚できてない事もあるしな。まあ、とりあえず方針は決まったな。部屋に戻るか。」
「ちょっと、待って。話はまだ終わってないわ。」
「うん?まだなんかあったか?」
「あなたと天羽さんの関係よ。あなたたちはどういう関係なのかしら?」
「どういう関係って、今日の朝たまたま会ったんだよ。さっき天羽さんがはなしてだろ?そのままだよ。」
「そう。じゃあ質問を変えるわ。あなたは天羽さんのことをどう思っているのかしら。」
「どうって。怪奇現象が起こって困ってる人ぐらいにしか。手助けする理由なんて、たまたま出逢って、たまたま怪奇現象を知ってしまって、たまたま僕がそれを解決出来るかもしれない力持ってた。それだけだよ。」
「そう。やっぱりあなたは誰にでも優しいのね。」
そう言って凪は先に部屋に戻っていってしまった。その時の凪の表情は暗くてよく見えなかったが、少し悲しそうだった気がした。
部屋に戻ると、凪と天羽さん話していた。
「そういうことで、まず、天羽さんの怪奇現象が起こった理由を探さなくてはいけないの。いえ、見つけなくてはいけないの。」
どうやら、さっき話して決めたことを伝えていたらしい。
「分かりました。でも、どうやって探すんですか?」
確かにそうだ。でも、こればかりは思い出すしかない。
「そうね。とりあえず怪奇現象に気付く前のことを思い出して貰うしか無いわ。なにか、印象的な出来事がなかったかとか。」
「ああ、そうだね。怪奇現象が起こる前に理由があって、起こったあとに理由があることはあまり考えられないからね。」
正直、さっきの質問のときに、心当たりがあるか聞いたとき、無いと答えていたが、少し間があったから多少なりとも心当たりはあるんじゃないかと思ってるんだけど。
「具体的にどんなことが原因になるんですか?」
「そうね、たとえばで言うなら、トラウマのようなものね。」
さっき2人で話した内容を繰り返す。
「トラウマ、ですか?」
「ああ、嫌だった記憶とか、印象的で心に大きなしこりのようなものがあると言うべきなのかもしれないけど。どちらにせよ、辛いことを思い出さなくちゃいけないんだ。」
天羽さんにとっては、今自体がとてもキツい状況でもあるのに、尚且つ昔の辛い記憶まで思い出さなくちゃいけないのは酷かもしれないが。
「分かりました。思い出してみます。」
そう答えた彼女も彼女なりの覚悟あってここにきているのかもしれない。
話に一旦区切りが着いたところで、凪が今日はお開きにするよう切り出した。
「今日はもう、遅いからお開きにしましょう。律、天羽さんを送ってあげて。」
「ああ、言われなくてもそうするつもりだよ。」
流石に、こんな遅い時間に年下の女の子を1人で家まで帰らすことは出来ない。
「じゃあ、天羽さん家まで送るよ。忘れ物ないように気をつけてね。」
天羽さんに、帰る準備をするよう促す。
「分かりました。月見里さん、ありがとうございました。これからもよろしくお願いします。」
「ええ、お互い頑張りましょうね。」
天羽さんは凪に挨拶をして、先に部屋を出ていった。
「じゃあ、また来るから。何かあったら連絡してくれ。」
「ええ、分かったわ。あなたも何かあったら連絡しなさいね。隠し事をしても私にはバレるのだから。」
釘を刺されてしまった。
「ああ、分かったよ。じゃあ、また今度な。」
「ええ、気をつけてね。」
そう言って、凪に部屋を出た。
「ごめん、お待たせ。」
「いえ、先に出たのは私ですし、そんなに待ってませんから。」
「そう?じゃあ、行こうか。」
僕たちは、長い階段を下り始めた。
無言の時間が続く。
沈黙を切り裂きたのは僕ではなくて天羽さんだった。
「あの、さっき怪奇現象が起こった理由を思い出さなくちゃいけないっていってたじゃないですか。」
「うん。そうだね。」
もう何か思い出したのだろうか。
「月見里さんに心当たりがないかって聞かれたときに、心当たりは無いって答えたと思うんですけど。本当に、あのときにはもう思い出してたんです。」
やっぱりか。その質問だけ、少し考えてから話してたような気がしたのは、気のせいじゃなかったのか。
「その話を聞く前に、ひとつ確認してもいいかな?」
「はい、何でしょう。」
「なんで、さっきは話してくれなかったのに、今話してくれる気になったの?」
さっき話さなかったことじゃなく、今話してくれる理由が気になるのだ。何故、さっきではなく今なのか。
「それは、、、その、、、」
間が空く。言いあぐねているようだ。
「言いたくないなら無理しなくていいよ。少し気になっただけだから。」
別に興味本位だったから、重要なことでもないしな。
「その、月見里さんがいたからです。」
凪がいたから?どういうことだ?
「先輩には申し訳ないんですけど、私、月見里さんのこと苦手かもです。」
ああ、そういう事か。まあ人には合う合わないあるからしょうがない事だとは思うけど。
「そうか。そういうことなら、ごめんね、僕もあんまり気が回らなかったみたいだね。」
しかし、ずっと苦手意識を持たれたままなのもちょっとやりずらくなってしまう。
「苦手に思った理由とか聞かないんですね。」
「まあ、人には合う合わないはあると思うし、今日のことに関しては、凪も天羽さんに結構踏み込んだ話を聞いたわけだから。逆に、今日は凪にばっかりそういう事させてしまったからちょっと心苦しいんだ。」
実際、僕が聞かなくちゃいけないことを凪がしてくれたのだ。それで天羽さんに苦手意識を持たれたのであれば申し訳ないと感じてしまう。
「確かに先輩は、あまり深く聞いてきませんでしたね。それにしてもやっぱり、誰にでも優しいんですね。」
それはさっき、凪にも言われた言葉だ。
「そんな事ないよ。たまたまなんだよ、全部。」
本当にたまたまなのだ。なにもかも、偶然なんだ。ひとつ違えばなかったかもしれない世界線なんだよ。
「さっき話さなかった理由は分かったよ。ありがとう。じゃあ、心当たりがある出来事について教えて貰える?」
話を本題に戻そう。
「分かりました。多分なんですけど、私がまだ高校に上がる前の話です。」
そう言って、天羽さんは自身についてのトラウマのようなものの話を始めた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます