第8話
何故こんな事をするのだ?
彼はまだ若い。頼むから、それを振るな。
向けるなら私に向けろ。
彼に手を出したら私が許さないー。
深夜2時。唸り声を上げながら私は苦しんでいた。ナツトが声を何度かけても起き上がる事が出来ず苛立ちの中もがき続けていた。
「ジュート、起きて。早く目を覚まして」
「…うっ。…ナツト、また俺唸っていたか?」
「うん。なかなか起きなかった。またあの向日葵畑?」
「違う。顔は
「凄い汗…タオルと着替え持ってくる。」
夢に出てきた者は誰なんだろう。もしあの様な事が正夢になれば事態は最悪になる。余計な事は考えない方がいい。
夜明けが近い、早く寝よう。
朝8時。今日は休日だ。洗面台で顔を洗い、卓上に向かうとナツトが朝食を作ってくれた。
昨日松井様が電話でタイチと一緒に会いにきて欲しいと告げられた事が頭を過ぎった。
「どうしたの?」
「いや、何ともない。今日タイチの自宅に行く事になった。」
「約束事?」
「松井様から俺と2人で別宅に来てくれと言われた。ただタイチの視力が弱くなってきているようなんだ。会わせない様にしたいのだが、どうすればいいかわからなくて」
「彼の人の言う事は絶対命令だからね。逆らうと何をされるか…取り敢えず行って話を聞いた方が良い。」
「タイチはどうなっても良いのか?過去の男だ。きっとまた手を出すに違いない」
「ジュート。一か八かだよ。君が松井様を宥めればまとまりがつくかも。上手く行く様に祈っている」
「そうだな。何とかその場を凌ぎたいな」
夕刻の時間に電話が鳴った。タイチからだった。これから自宅に来て欲しいと言われたので、支度をして家に向かった。到着して玄関の前に立って待っていると、扉が開きタイチが出てきた。
様子が変だ。
「タイチ、俺が見えるか?」
「ジュート、まず家に上がって。」
彼は片方が寄り目になった状態で顔を俯き、物や壁を伝いながら、歩いていたので、身体を支えてあげた。
居間に入り座卓に手を掴ませて
「今朝起きてから、視界が良くないんだ。貴方が迷彩色の様に見える」
「ならば、病院に行こう。ついて行ってあげるから、支度をして」
「その必要は無い。玄関に白杖があっただろう?事前に用意したから、あれがあるなら大丈夫だよ」
「ママには連絡したか?」
「うん。お店は近々辞める事にした。あと少ししか居れないけど、最後までステージには立つよ」
「この状態で松井様の所に行くのか?殆ど見えないのなら危険だ。俺が1人で行く」
「一緒に連れて行って。彼の人に僕からも話の決着をつけなきゃならない。2度と近づくなと自分の口から言うんだ」
「其処までして彼の人に会う理由は何だ?お前の母親が殺された因縁を
「そうだよ。そうでもしないとお母さんは成仏できない。奴の首を
「危険な目に遭わせるのはいかん。考え直せ」
「良いから連れてって!…そうしないと僕は一生引きずったまま生きていかなきゃいけない。そんなのはご免だ」
彼を思いきり抱きしめると、薄笑いをして私に向かって告げてきた。
「
「何だ?」
「僕をもう一度抱いて。完全に見えなくなる前に…あの時みたいに貴方の腕の中で
私の腕にしがみつき手の指の間に、自分の手を絡ませてきた。探る様に耳たぶを甘噛みして、吐息を吹きかけてきた。顔の前に近づけて頬に手を触れると、彼は涙を流していた。
「僕だけ何故こんな運命に晒さなければならないんだろう。神様からの試練なんだろうね。…怖いよ」
「分かった、抱いてやる。寝室に行こう。さぁ立ち上がって。案内してくれ」
身体を抱えて寝室に入ると、幅の狭いベッドが置いてあった。タイチを座らせると、私の首に腕をかけて口づけしてきた。お互いの衣服を脱ぎ捨てて、彼を仰向けに寝かせると、暫くの間きつく抱き締めあった。弄りながら身体を撫で回していくと、彼は深く呼吸をして私の頬を両手で押さえ、子犬の様に唇を舌で舐めてきた。
私も彼の口を開けて舌を絡ませて、下半身の下着を下ろして性器を愛撫した。
「そこ…口で入れて舐めてくれ」
彼がそう告げてきたので、脚を私の肩にかけて、陰茎の先を舐めてから、口の中に
次第に硬くなった陰茎に私の性器を当てて、彼の下半身を持ち上げながら、腰を揺すった。微かな
「僕、今どんな顔をしている?」
「優しく穏やかな表情だ。その中に…
「ふふっ。体勢を変えるよ。尻に挿れてきて」
タイチが息を荒らしながら、四つん這いになった。背中に抱きついて背筋を舐めていき、ビクリと動いた身体を押さえて、尻の穴に性器を挿れて突く様に全身で揺すった。
高揚する互いの身体が今にも熱く溶けていきそうな感覚を味わった。
「ジュート…ありがとう」
タイチは私を抱きしめてそのまま眠りについていった。
翌朝、私は先に目が覚めて、台所の冷蔵庫の中を開けた。
再び家に戻り、朝食の用意をしていると、タイチが起きてきた。
「おはよう。良い匂い…何してるの?」
「おはよう。台所使わせてもらった。朝飯を作ってる。目覚めはどうだ?」
「なんか、すっきりしている。僕、顔洗ってくるね」
卓上に焼き魚や惣菜、温かい味噌汁と白飯を並べると、タイチは顔を近づけて微笑んでいた。
「いただきます…味噌汁の具材、茄子かな?」
「あぁ。玉葱も入れたよ。温まるだろう?」
「うん。これは、鮭だね。…ほくほくしている。ジュートさん、上手だね。お母さんみたい」
「普段はあまり作らないのか?」
「本当は作れる。目がこうなってしまって、作る回数が減ったんだ。でも、頑張って作る様にする。自分の為にさ」
「そうか。努力家だな。偉いぞ」
タイチの穏やかな表情を見ていると、彼も孤独なりに生きる事に必死なんだと思いが伝わってくる。自由にしたい事が出来る事は当たり前の事ではなく、相当恵まれている事なんだと、改めて考えさせられた。
朝食を済ませて、帰る支度をしていると、タイチから声をかけられた。
「此処にお母さんの位牌と寫眞が飾ってある。お参りしてくれるかな?」
彼の母親の寫眞の前に座り、合掌をした。
彼女は彼と瓜二つという程顔が似ていた。
優しく微笑んで此方を見守る様に見ている眼差しが胸を締め付けた。
玄関で靴を履いていると、タイチはある話をしてきた。
「昨日話した松井様の件、僕も一緒に連れて行って。覚悟は出来ている」
「分かった。俺から連絡しておくから、後日別宅に向かおう」
彼は闘志を燃やす様な表情で私の顔を見つめていた。
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