第49話 送信者[フラン] タイトル[戦い方くらい教えとけやハゲ]
「やっと来たな」
裏路地を更に深く進んだ先にある小広い空間。そこで待つこと数時間、日が傾きかけた頃に建物のあちこちに気配が生まれた。屋上にも無数の人影がある、大体5人というところか。夕日を背にしているため、浮かび上がるシルエットはなんともドラマチックだ。
馬鹿みたいな大人数で仕掛けてこない所を見るに、少数の精鋭だと思われる。少なくとも、さっき戦った2人よりは威圧感が数倍強い。これが『葬儀屋』の戦力なら、確かに裏路地を仕切れる程度はあるな。
「ふがっ……!?」
麻袋から顔だけ出して寝てるチンピラを蹴って後ろへ退け、刀を抜き放つ。それを合図に、一瞬で全員が動いた。
真っ先に屋上から身を翻して降りてきた黒い肌の男は、両手に分厚い湾曲した刃の得物を持っている。奴が最も存在感の強い――どうやらリーダー格のようだ。
「ククリナイフか、珍しい」
「用件はわかっているな、貴様とそこの野良犬を始末しに来た」
「好きにしろ、出来たらの話だが」
「図に乗るなよ」
幾つか短く言葉を交わし、その後は剣で語り合う時間だ。
頭上から叩きつけられたククリナイフを受け止めて弾き、返す太刀で横薙ぎ一閃。
「はぁ!?」
それを今度はあちらが防御するが、私の斬撃は刀身を真っ二つに切り裂いた。男は半ばから消失したククリナイフだったものを見て、呆然とする。しかし、直後に地面を割いて出てきた手に足を掴まれた。
「よくやった!」
「今のうちに!」
どうやらちゃんと連携を取ってくる相手のようで、背後からまた別の奴が斧を振り上げていた。
「無駄ァ!」
「うおおぉッ!?」
私が逆にその手を掴んで引っ張り上げると、土を引っ剥がして土竜のような顔をした人が地上へ姿を現す。成程、これまた珍しい土竜の獣人族か。
宙に浮いたそれを投げ飛ばし、後方の斧持ちにぶつける。受け止めざるを得ない相手は、勢いのまま壁に衝突した。
「ぐあっ!」
「ごっ……!?」
2人は石の塀を突き破って仲良く地面と熱いベーゼを交わす。その後隙を狙ったのか、4人目が影の中から滑るように飛び出して背中へとナイフを突き刺した。
「ウブッ……」
が、体を逸してそれを回避、空振りした腕を掴んで鳩尾に蹴りを入れる。さらにその後隙を狙って5人目が走り込みながら拳に闘気を溜め、後頭部を狙って跳躍しながら殴りかかった。
「……って、うおぉいッ!!!」
「ガハッ……!?」
裏拳で横っ面を叩き、何度か地面を跳ねながら壁を貫いて瓦礫の山に沈む。
「なーにが葬儀屋だこの脳足りんのチンパン共が! どいつもこいつも馬鹿の1つ覚えみたいによぉ! バクスタ擦ってるだけで勝てると思うなよハゲ! 始めて1週間の初心者か? おぉん?」
「クッ……こいつ、コンプライアンス的に不味いことをペラペラと……!」
引退しろ!
「期待して損したわマジで……肩書だけは一丁前の癖に、ピエロのデリバリーは頼んでねぇんだよ!」
「貴様、言わせておけば!」
「……チミたちもう帰っていいよ、飽きた」
「こちらはそういうわけには行かないんだがッ!」
最初にククリナイフを切られた男が腰に差した予備の剣を抜き、私へと斬りかかる。それを最低限の動きで躱し、復路を通ろうとした刀身を手で掴んだ。
「なっ……!?」
「私、今帰れって言ったんだけど?」
相手も力を入れているため剣は小刻みに揺れ、握った掌から少し血が滲むが、そんなことお構いなしに握力に任せて剣を砕く。男はその様を見て驚愕に目を瞠り、数歩後退った。
「ああ、でもアレか。お前ら餌に、頭を引き摺り出す方が賢明だな。どうしたら良いと思う? 全員の死体をここに並べて、お手紙でも添えておけばいいかな?」
「……ッ」
「それとも、1人だけ半殺しで帰して、ここであったこと全部伝えて貰ったほうがいい?」
「貴様、本当にただの冒険者か……? 思考がアウトロー過ぎる……」
私の言葉に、男がドン引きして顔を青褪めさせる。先に喧嘩を売ってきた癖に、報復を恐れるなよな……。しかし、これ以上痛めつけてもあんまり益が無いような気もする。
「よし、じゃあ――――脱ごっか?」
「……えっ?」
そういうときは脱がすに限る。街中でPvPを行った者、それも敗者は身ぐるみ剥がされる末路にあるのだ。おっさん5人の全裸ショーとか誰得だととも思うが、ボコボコにされた上に殺されず全裸放置はメンタルに効くだろう。
◇
天井から吊るされた豪奢なシャンデリアと、窓の外から差す微かな明かりの照らす部屋の中。咥えた葉巻から紫煙をくゆらせながら、艶のある革張りの椅子に背を預けた男は目を細める。
「葬儀屋が失敗しただと?」
白髪の混じった黒髪を後ろへと撫で付け、黒を貴重とした服に身を包むその男の問いに、今しがた報告をした配下の密偵は首を縦に振った。
「はい。何故か全員が気絶したまま全裸に剥かれて放置されていたと。近くにはこれが」
そう言って渡されたのは、1枚の手紙だった。内容は簡潔。
「なになに……『戦い方くらい教えとけやハゲ。バクスタチンパンばっか送り込んで来やがって、お前の組織は猿しかいないのか? そんなんで葬儀屋とか裏の顔気取ってイキるな。悔しかったら本気で掛かってこい』だと?」
書いている内容の半分程は意味が理解出来なかったが、馬鹿にされていることは分かる。男の手に力が篭もって手紙がグシャ、と握りつぶされた。
「このっ……!!」
「落ち着けゴルドー。これは冒険者1人程度に負けた奴らが悪い」
激昂するその男、ゴルドーの呟きに返事をしたのは、部屋の入り口に佇む長身の怪物だった。頭部は灰色の毛並みを持つ狼のもので、その肉体は人型なれど同じように毛に覆われている。彼はゴルドーに雇われた専属の護衛、[人狼]と呼ばれる獣人種族であった。
「そ、そうだな。計画自体は順調なのだ。1度は邪魔をされたが、最早奴が失脚するのは時間の問題。あんな冒険者程度、本来ならば無視しても良いのだからな」
ゴルドーは大振りの宝石が付いた指輪だらけの両手を組んで、仄暗い笑みを浮かべた。狼男はそれを一瞥し、何を言うでもなく瞑目する。
「ふ、ふふ……もうすぐ、もうすぐ私の悲願が達成される。私こそが支配者に相応しい、断じてあのような男が議長の地位に居座る権利は無い」
ゴルドー・アルトマン、アルトマン商会の主でありディアントの議会へ影響力を持つ商人の集団――『銀天衆』の一員。そして彼は実質的なこの都市の支配者、議長の座を狙っていた。
「私の野望を叶えるため、
「ああ、仕事はきっちりこなすぜ。あんたが報酬を払える間は、味方でいてやる」
「頼んだぞ英雄――"シス"よ」
そして、その男の側にいる人狼こそが、嘗てローンデイルの英雄たちと呼ばれた者たちの1人。傭兵クラン『ヴォルフガング』の頭領、シス・ウルフィン。
「銀髪の吸血鬼剣士……これは戦うのが楽しみだな」
その黄金の瞳に宿る獰猛さを隠すこと無く、シスは期待から低い唸り声を漏らすのだった。
◇TIPS
[バックスタブ]
背後からの不意打ち攻撃。
成功するとダメージが2倍になり
カウンターや反射などの一部スキルを無効化する。
命を賭した戦いにおいて
卑怯という言葉は敗者の遠吠えでしかない。
襤褸を纏う剣客は嘯いた
「言い訳というのは、負けた奴しかしないものだ」と。
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