第44話【カイエン視点】力になりたい

 ――エウレス皇国の洗脳を少しでも消したい。


 今回は私の独断と偏見で決めたことである。

 とてもじゃないが、国の最高責任者である者として、このような提案をすること自体間違っている。

 王宮で大臣らを招集し、会議をしたが意見が半々に割れてしまった。

 むしろ、よくこれだけ賛同してくれたものだと驚いた。


 やはり、間近で聖女リリア様の活躍を見たからであろう。


 デインゲル王国に倒して甚大な被害を与えてきたエウレス皇国のことは、憎むべき存在であり、助け舟など差し出す必要はない。

 だが、聖女リリア様へ対する誤解を拭い去ることを優先しようと思ったのだ。

 そう思ったのは、エウレスの大使の悪事が分かったときからだ。

 リリア様へ対しての異常なまでの憎悪。

 なぜあれほどまでに憎むことができるのか。

 私は疑問になり、大使を追放した後、彼が使っていた部屋を調べた。

 すると、エウレス皇国からの報告書を発見した。

 それがエウレス皇国で騙され続けた民や貴族たちを救いたいと思ったキッカケだ。


 私は大勢の護衛と共にエウレス皇国へ向かい、早速ラファエル皇王が不在で対談が始まった。

 思いの外ここの人間とはまともに話ができ。た。

 中でも宰相は皇王に対し不信感があったようで、私の主張をほとんど疑うことなく聞いてくれていたようだ。


 おかげで、皇王の判断無しで我が国へ避難誘導計画と、リリア様が聖女である情報をエウレス皇国の者達へ広めることが容易に可能となった。


 避難誘導計画三日目にして、不在だった皇王が帰ってきたそうだ。

 宰相の行動力は相当なもので、既に皇王を追放という動きまである。

 実際に、皇王の妃は何らかの不正が発覚し既に監獄の中だそうだ。


「な、なぜデインゲルのカイ……カイロス王が私を差し置いて宰相たちと話しているのだ!?」


 皇王は物凄い苛立ちな素振りをしながら、私を睨んできた。

 このような男が皇王陛下という立場で下の者たちがさぞ苦労していたに違いない。


「それよりも、宰相よ! 何故マーヤを投獄した!?」

「皇王よ、他国の王がお見えになっているのにそのような態度はお控えください」

「いいから質問に答えよ!」


 どうやら皇王はマーヤと呼ばれる者のことしか頭にないらしい。

 私に対し怒っているようだったが、いつの間にか怒りの矛先が宰相に向いていた。


「私のことは気にしなくとも構わぬよ」

「お恥ずかしいところをお見せしてしまい……」


「宰相よ! あまり私を怒らせるな。質問に答えよ!」

「魔力詐欺とでも申しましょうか」

「なんだと!?」

「皇王の花嫁は国に貢献できる者と法で定められております」

「だからマーヤのような強力な魔力を持った者と結婚しただろう。今はスランプ状態のようだが」


 この皇王は……いや、エウレス皇国の文明は大丈夫なのだろうかと心配になってきた。

 魔力にスランプ状態などあるわけがない。

 心臓と同じように、体内で常に流れているものだ。

 仮に魔法が使えなくなったとすれば、それは体内からの魔素が消滅したということ。

 魔素が尽きても死ぬことはないが、二度と魔法は発動できなくなる。

 そんなこともここにいる者達は知らないとでもいうのか。


「マーヤ様は魔道具を使い、強力な魔導士だと偽っていたことが判明したためです」

「そんなバカな……。一体なんのために」

「前国王を騙した罪は重いです」

「ふん、そんなもの、私の権限で釈放だ!」

「いえ、皇王にはその権限はすでにありませぬ。皇王も牢獄へ行ってもらうのですから」

「わ……私が何をしたというのだ!?」

「聖女リリアを追放し、我々だけでなく民をも巻き込み、聖女ではないと偽りの情報を流したことです……。それだけではない。あの大使を利用し、デインゲル王国を妨害した者が皇王となってはどうしようもできませぬ」

「な……?」


 皇王が足をガクガクと震わせている。


「更に……」

「もうよい! これ以上喋るでない!」

「己の昇進のために前皇王陛下を……」

「黙れと言っている!」


 とんでもない男が皇王だったとはな。

 私の独断で移民を受け入れる提案に一部修正をかけなくてはならぬな。

 皇王とその妃は受け入れられぬ。


「さては……貴様が妙な言いがかりを植え付けたのだな!?」


 皇王はそう言いながら、私を睨む。

 周りにいるエウレス側の者達も、皇王の行動を見て呆れているようだ。


「ラファエル皇王よ、其方はなぜ聖女リリア様のことをそこまで憎むのですかな? 彼女ほど人間が出来ている者もそうはいないと思いますが」


 私は手錠をかけられた皇王に対し、気になっていたことをぶつけてみた。

 すると、皇王は勝ち誇ったかのように嘲笑いはじめた。


「堅物で私のことをまるで尊敬しようとしてこなかった……。たとえ聖女だったとしても私は認めぬぞ。マーヤこそエウレス皇国に相応しいのだからな! 皆もいずれそのことに気がつくであろう!」


 不正して牢獄されているマーヤという者を、今もなお信頼しているらしい。

 むしろデインゲル王国にとっては好都合かもしれない。


「つまり、皇帝とマーヤというお方が揃えばエウレス皇国は立て直しが可能と仰るのですな?」

「当然だ。何故当たり前のことに気がつかないのだ……」


 周りが凍りつくような空気になった。

 連行されていく最後の言葉がこんなものだとは誰もが想像できなかったのだろう。


 ──ラファエル皇王陛下よ、これも聖女リリア様やカサラス王国を苦しめてきた罰になるであろう……。自らの恥ずべき考えに気がつくまで悔い改めるがよい。


 そう思いながら、エウレス皇国でもう暫く滞在させてもらった。

 それにしてもこの国は本当に深刻な水不足だ。

 早いところ手を打たなければな。

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