第26話 カルム様の体調不良
私は日課として、毎朝ルビーと一緒にエドナ山脈の泉で水浴びをする。
その後でカサラス王国のあちこちにある小さな村へ飛んでいき、水の加護を与えているのだ。
もうそろそろ、国全体に水の加護を与えられてきたのではないだろうか。
午前中に作業は終わってしまうので、午後は特に決まっていない。
いくら泉でルビーの力が莫大に増加したとしても、一日中力を放出していたらさすがに過労になってしまう。
だからこそ毎日午前中だけ活動することにしているのだ。
こうなってくると問題なのは私自身。
午後はどこかで仕事をしようかと思ったのだが、それを相談したらカルム様だけでなくイデアにまで止められた。
エウレス皇国では嫌というほど国務をやらされていたから、午後の時間は何をしたら良いのか毎日悩まされているのである。
今日も午前の作業を終えて王宮に帰ってきたところ……。
「カルム様、ただいま帰りました」
「うむ……。毎日頑張ってくれて感謝している」
カルム様とお会いするのは実は久しぶりだったりする。
最近のカルム様は多忙でなかなか会う機会がなかったのだ。
だからこそ、今王宮の通路で偶然会えたことがとても嬉しかった。
だが……。
「顔色が悪く見えますが、大丈夫ですか?」
口には出さなかったが、以前より更に痩せ細っているように見えるのは気のせいだろうか。
「あぁ……問題ない。リリアの顔を……見たら元気が出た」
その割には、口調が途切れ途切れだし、顔色が明らかに悪い。
「カルム様、一度部屋でお休みになられた方が良いかと思いますが。お仕事で私に出来ることがあればお手伝いします」
「それは……ダメだ。リリアに仕事を押し付けるような行為は。とにかく! 迷惑をかけるわけにはいかないのだ……」
カルム様の態度が普段と違い違和感がある。
迷惑だとは思わないし、ある程度の仕事を与えてくれた方が、私としてはむしろ嬉しいのだけれど……。
「そうですか……昼下がりから夜までは何もすることがなくて、何か私にもできそうな仕事を探そうかと思っていましたが」
「過労はダメだ。リリアは聖女の力を使って国に十分に尽く……している……それに……」
と、言っている矢先、カルム様が床に倒れてしまった。
大事そうに持っていた書類も床に散乱している。
「カルム様!!」
慌てて声をかけるが返事がない。
しかもこんなときに限ってカルム様は一人で動いていたようで、周りには誰もいない。
私ではカルム様を運べるほどの筋力はないので、今頼れるのは肩に乗っかっているルビーだけ。
人が乗れるサイズくらいまで少しだけ大きくなってもらって、医務室へ運んでもらった。
♢
「こりゃ過労が原因でしょうな……」
王宮直属の医師は、落ち着いた表情で私に告げた。
過労はダメと言っていたばかりなのに本人が過労をしていたとは……。
医師の話によると、カルム様と事務の人達が不眠不休で国務を行なっていたらしい。
カルム様ほど重症ではなかったそうだが、他にも数名がここでお世話になったそうだ。
仕事が前代未聞の山積みになってしまって逼迫しているらしい。
「カルム様、いえ、カルム殿下は目を覚ましますよね!?」
「早い段階で体力回復薬と疲労回復薬を投与したので、今回は命に別状はありません。ルビー様とリリア様が早急に運んでくれたおかげですな」
医師の言葉を聞いても、目を覚ますまでは安心ができなかった。
それに『今回は』と言われてしまえば次はないのかもしれない。
脳裏に不安が溢れてしまい、涙が流れた。
医師から許可をもらい、カルム様が目が覚めるのをここで待つことにした。
その合間に、先ほど拾っておいた書類の束もきっちりとまとめ直す。
ページが振ってあるので順番通りに直していたのだが……。
「これって……」
書類の内容までは見るつもりはなかった。
しかし、ページを確認する時にどうしても目線に入ってしまったのである。
ここに書いてある内容が原因で、カルム様達が過労せざるをえないほど大変な状況になっているのだと確信した。
やはり、私も午後はカルム様たちの役に立ちたい。
そう思い、カルム様の顔を見ながら目が覚めることを祈っていた。
♢
日も暮れて夜になった頃、カルム様がゆっくりと目を覚ました。
「お目覚めですか? お体は大丈夫ですか?」
「う……リリア? 私はいつの間に……」
カルム様は辺りを見渡して状況を理解したようだ。
「すまない……すぐにやらねばならないことがあるのだ」
ベッドから起き出そうとするカルム様だが、私はすぐに止めた。
「ダメです、まだ起きては! 医師の先生も一晩は安静にするようにと言っていましたし」
「しかしそれでは私の任務が……」
「過労はダメと仰っていましたよね? 私だって言いますよ」
もちろん国のため仕事をしていることなのに、休めと口出しすることなんてご法度かもしれない。
だが、このまま無理をしてカルム様の命に関わるようなことがあってしまっては、取り返しのつかないほど後悔してしまうだろう。
それにカルム様の民衆からの人気も高い。
国中が悲しみに包まれるような光景は見たくないのだ。
「魔道士たちが待っているのだ……。急ぎ問題解決に向け考えねばならん」
「申し訳ございません……。見るつもりはなかったのですが、書類をまとめているときに少々内容が見えてしまったのですが、魔道士たちの雇用問題ですよね?」
「まぁ……そういうことだ」
物事とは、全てが都合よくいくわけではない。
国の環境を水の加護で一気に変えた。
その結果、水を毎日具現化する必要がなくなったのである。
つまり、毎日過酷なくらいに活動していた魔道士たちが、今度は暇になってしまい仕事が激減してしまったのだ。
その対策に追われているのが今の現状で、カルム様達はこれが原因で過労になってしまっている。
カルム様は、テーブルの上に書類が纏まっていることを確認してから私に頭を下げてきた。
「魔道士たちは今まで死に物狂いで頑張ってきてくれた。だからこそ、今後も仕事をしたいものたちには何か提供したいと思っているのだが……。やはり起きなくては!」
頑張って起き上がろうとするが、すぐに私が身体を張って止めた。
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