第25話 カルム様とエドナ山脈へ

「カルム様、まだ時間は少しありますか?」

「問題ない。行きたい場所があるならば付き合おう」

「ありがとうございます。ルビー、エドナ山脈へ向かってちょうだい」

「ぎゅーー」


 さて、せっかくカルム様とデートが出来るのだから、やはりここへ行きたかったのだ。

 あっという間にエドナ山脈へ到着し、慣れた感じで洞窟へと侵入していつもの泉まで到着した。


「ほう、ここはルビーが覚醒した泉ではないか。いつも来ているそうだな」

「はい。普段は裸になって水浴びをしているのですが……」

「まさか!?」


 カルム様の顔が真っ赤っかになってしまっている。

 つられて私まで赤くなってしまう。

 流石にカルム様と裸になるつもりはない。


「違います! ですが、ここの泉には不思議な力があるようなので、水浴びをしようかと思いまして……」

「ふむ……だが流石にリリアの前で裸になるわけにもいかぬからな」


 できればここに連れてくる前に水着を手に入れたかったのである。

 だが、どこの洋服店に行っても水着は存在していなかった。

 やはり他国へ行って仕入れる必要が今はあるのだ。

 だからこそ毎日コツコツと作っていたものがある。


「これをどうぞ」


 持ってきた荷物の中から、この日のために用意していたものをカルム様に渡した。


「なんだこれは? パンツ? いや、何か違うような……」

「これが水着です。私が作りました」

「ほう! リリア特製の!?」


 どうやら喜んでくれているようだ。

 店で売っているような完璧なものではないし、所々縫い目が荒い部分もある。

 だが、愛情だけは誰にも負けてはいないだろう。


「これに着替えていただければ一緒に水浴びができます」

「ほう! 感謝する。では早速着替えよう。だがこれは下に履くものだろう。上はどうしたら良いのだ?」

「上は基本的には男性は裸ですね」

「な!?」


 モジモジし始めてしまった。

 女子力が高いのか。

 いや、水着の伝統も温浴の伝統もないのだから無理もないか。


「シャツだけ着たままという方法もありますが」

「いや、ここはリリアの言うとおりに従おう。いずれ慣れる」


 そう言って、カルム様はすぐに服を脱ぎ始めた。

 すぐに私は反対を向いて着替えを見ないようにした。


 しばらく待つと……。


「リリア、着替えたぞ。これで良いのか?」

「うわあぁぁ……」


 カルム様は痩せ細っているとばかり思っていたのだが、服を脱いだ姿を見たらこれまでのイメージが一変した。


 細マッチョなのだ!


 痩せ細りながらも、筋肉が引き締まり、お腹の筋肉は割れていてとてもたくましく見える。


「どうした? 何か不満だったか?」

「いえ、そうではなく良い身体をしていらっしゃると見惚れておりました」

「そうか。実は毎日国務の後に鍛えているからな。国を守るためには体力や力も必要なのだ」


 たくましい……。

 今まで筋肉自慢してこなかったことや、今も自信過剰になっていないところが、なおカッコいい。

 見惚れてしまい、すっかりやるべきことを忘れていた。


「私も着替えますね」


 そう言って、すぐにワンピースを脱ぎはじめた。


「な!」


 カルム様の悲鳴などお構いなしに服を脱ぎ、更に下に履いていたスパッツも脱いだ。


「リリアよ! 私がいるのだぞ! そんな下着姿に……」

「いえ、これも水着です。女の子用ですけれど」


 白色のビキニを自分用に作っていた。

 いずれカルム様とここに来たとき一緒に水浴びを楽しめるように……。

 実は毎日コツコツと、部屋で水着を作っていたのだ。


 白ビキニも完璧なものではないが、それっぽくは仕上がっているし、隠す部分はしっかり隠れているので大丈夫だろう。


「水着とは刺激が強すぎる……リリアの身体をここまで見てしまって……」


 何やらぶつぶつと小声で喋っているが、聞かなかったことにしておく。

 いきなりこんな姿になってしまったら、免疫のない人間ならば驚いても無理はないだろうし。


 ちなみに、ワンピースで来たのもこのためである。

 これなら直ぐに着替えられるし、帰りもワンピースさえ着用していれば、隠す部分は見えなくなるし。

 幸いイデアから無理やり履かされたスパッツがあるから何の問題もない。


「さ、カルム様。一緒に水浴びしましょう!」

「水の中に入るのか!?」

「大丈夫ですよ。さあ」


 カルム様の手を握って、泉の方へと向かった。

 私が誘導するのも些かドキドキしてしまうものがある。


「冷たっ!!」

「慣れですね。ゆっくりと浸かっていけば身体が慣れますから」


 私は慣れた動きでゆっくりと泉の中へ浸かり、やがて首より下は全て水の中だ。


「ほう、私も王子として、この激務を必ずや遂行してみせよう!」


 バッサバッサと水をかき乱しながら無理矢理肩まで浸かったように見える。

 イデアも最初はもがいていた。

 カルム様の場合は動きが少々おかしくて少しばかり笑ってしまった。


「すまんな。慣れないものでカッコ悪い姿を」

「いえ、カルム様はカッコいいですよ」


 外見的なものだけではない。

 今回だってカルム様が頑張ってもがいている姿は面白かったが、やはりカッコいいのだ。

 一生懸命な姿が特に。


 もちろんこのことは口にはしないでおく、今はまだ。


「リリアよ。私は決して何でもできる王子ではない。得意なものもあれば苦手なものもある。はっきり言って先程のようなモンスターは、私では手に負えないし役立たずだ」

「いきなり何を言っているのですか?」

「リリアに頼ってばかりで、すまないと思っている。私もリリアに何かしてやれればいいのだが……」


 カルム様は残念そうな表情をしながら顔を上にあげた。

 何か思い悩んでいるのだろう。


「私はカルム様に救われたからここにいるんですよ。エウレス皇国にいたとき、カルム様が出迎えてくれた日のことは忘れません。あの日をきっかけに私の人生は大きく変わったのですから」

「リリアよ……」

「思い悩む必要はありません。これからも私はカルム様へ恩返しをしながら歩み寄れたらと思っております」


 さっきは告白紛いのことを言って失敗した。

 今回は自分の気持ちは抑えながらカルム様への感謝の気持ちだけを伝えることにした。

 本当にカルム様へは感謝の想いが強いのだ。


「ふ……まるで告白されたみたいだな。嬉しいよ」

「はい!?」


 どうして私が遠回しに告白したときは気づいてくれないのに、今回のような発言でそう思われてしまうのだろうか……。


「冗談だ。だが、幾分元気になれた。リリアよ、これからもよろしく頼む」

「も、もちろんですよ」


 私も学習能力がなさすぎる。

 やはりカルム様には、しっかりとしたシチュエーションを作り、より正確に的確で想いを伝えないとダメそうだ……。


 もちろん今は国のことを大事に考えていることは重々承知なので、まだまだ先のことになりそうだが。


 水浴びを終え、それぞれ着替え終わったところでルビーに乗って王宮を目指した。

 やはり、上はブラなしで下がスパッツだけでは違和感しかない。

 今度は下着も持ってくることにしよう……。

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