第17話 なぜ魔法が?

「では、今日もいってまいります」

「きゅーーーー!」

「……お気をつけて」


 イデアに挨拶してから、巨大化したルビーの背に乗りエドナ山脈へと飛んでいった。

 ここ最近、エドナ山脈にある洞窟の泉でルビーを水浴びさせるのが日課である。


 聖なる泉で水浴びをすることによって、ルビーの力が増大しているような気がしたのだ。

 その結果、ルビーを巨大化させることも難なく可能になったのである。


「ルビーを本来の大きさにさせるには、国の信じる心と祈りが必要だったのに……」


 エウレス皇国では誰もが聖女の力を疑うような国だったので、ルビーを本来の大きさに戻し、更に強力な力を発動させることが困難だった。

 だからこそ、私の聖なる力をほぼ全てルビーに捧げてなんとかしていた。

 だが、今は私の力はほんの僅かでも水の加護を発動させられている。


「エドナ山脈のこと、もっと調べて泉の力の謎を解明したいわね」

「ぎゅーー?」


 一般の人間がエドナ山脈の洞窟付近に近寄ると、記憶がなくなると聞いていたが、私達が来たときはなんともなかった。

 しかもなぜここの地域だけ泉で水が溢れているのかも不思議だ。

 ともかく今は、ここで毎日お世話になることにしている。


 馬では二日かかるエドナ山脈だが、ルビーの飛行のおかげで僅かな時間で到着した。

 すぐに洞窟内部にある泉へと向かい、服を脱ぎはじめる。


「はーーー気持ちいい!」


 ここは誰も来ないので、私も全裸になってルビーと一緒に水浴びを楽しんでいる。

 昔から水浴びや温浴が大好きだったので、私にとっての楽しみになっていた。


「今度はカルム様と一緒に水浴びしに来たいなぁ」

「きゅーー?」

「あ……」


 浮かれてしまっていたのだ。

 ルビーがおかしそうな表情をするものだから、私がとんでもない発言をしていることに気がついた。

 水の中で勝手におかしなことを考えてしまって顔が赤くなる。

 そのまま水の中に顔をつけて潜った。


「私ったらなんてことを言ってしまったのか……」


 カルム様やイデアがいなくて助かった。

 カサラス王国には水着がない。

 だからこそ、この発言を本人の前でしてしまえば変態扱い確定である。

 だが、もしも一緒に水浴びできたらどれだけ楽しいだろうか……。

 水着がカサラス王国でも販売していればなぁ。


 ♢


「リリアよ、エドナ山脈でのことなのだが」

「はい!?」


 先ほどの水浴びで変なことを考えていたせいで妙なことを想像してしまった。

 つい大きな声を上げてしまい、カルム様も驚いてしまったではないか……。


「大丈夫か?」

「すみません。ところで、エドナ山脈がどうしましたか?」

「すまぬ。エドナ山脈がどうこうというわけではなく、以前私達が三人で初めて行ったときに思ったことで相談しようと思ってな」


 今日の私はダメかもしれない。

 気持ちを切り替えてしっかりと聞くようにする。


「我が国では水浴び文化がなくてな。せっかく王都の水不足が解消されてきたことだし、水浴びを普及させていきたいと考えている」

「良い案だと思います。私自身も水浴びや温浴も大好きですから」

「温浴?」


 カルム様は不思議そうな顔をしながら頬を掻いている。

 水が本当にない国だったから知らなくても不思議ではないか。


「魔法か魔道具を使って水を四十度前後くらいまで温めます。温かい水に浸かると寒くならないですし、むしろ身体が温まって出た後も身体がポカポカするんですよ!」


 この手の話題になると、私の口調が普段よりも激しめになってしまう。

 カルム様も興味を持ってくれたような雰囲気はある。


「温浴か……魔法が使えれば容易にできそうだ。リリアは確か魔法は使えなかったか?」

「そうですね……私は全くダメで。ルビーを召喚しているときに、こうやって『水よ来たれ』と──」


 ──バシャーン!


 手を出して再現をしたつもりだったが、突然私の手のひらから水が勢いよく放水されてしまった。

「うむ。それが魔法だ」

「も……申し訳ございません!! まさか魔法が出せるなんて思わなくて……」


 床が水浸しになってしまった。

 しかもかなりの量が放たれてしまったのだ。


「床など気にする必要はない。それよりも、今の魔法は具現化魔法だろう? 高等技術が必要な上、かなりの量だったな」

「ほんとうに今まで魔法なんて使えなかったんですよ?」


 カルム様も驚いているようだったが、私の方がその何倍も驚いていた。

 どうしていきなり魔法が放てるようになったのだろうか……。

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