第16話【視点】マーヤの誤魔化し方
「ラファエルって肩書以外はクズねー! 明日、皇帝陛下に魔法を見せろっていきなり言ってくるなんて……。私の都合も考えないで勝手なことばっかり言わないでほしいわね!」
ラファエルが帰ったあと、マーヤは苛立っていた。
自分のことを溺愛してくれているからこそ、マーヤにとってはラファエルが必要である。
何でもやってくれたり動いてくれるからこそ、マーヤのワガママも聞いてくれ、楽な生活ができるようになるからだ。
しかし、ラファエルの身勝手な行動に関しては嫌いなのであった。
「皇帝陛下相手に見せるってことは必ず側近に魔導士がつく……。このままでは絶対にバレるわよね」
もしも皇帝に魔法を見せ、魔力がない魔道士だとバレてしまえば、リリアのときのように婚約を破棄されてしまうと予想していたのだ。
皇妃になり王宮の財宝や資産を手にいれることで頭がいっぱいのマーヤは、直ぐに誤魔化すことを考えていた。
「こんなこともあるだろうと思って用意しておいて正解だったわー。さすが私。用意周到よね!」
収納棚の奥の方へ手を出し、取り出したものは……。
「これさえ使えば明日一日、私は無敵の魔道士になれるわ!」
マーヤにとっては手に取ることもできないような希少品の魔力増幅薬。
しかも、本来はモンスターとの戦闘中に命が危険になった場合に飲むような危険な緊急用薬品である。
いつかの魔力の少なさが露呈されることが来るだろうと考えていたため、こんな魔道具も持っていた。
どんなに危険なものかはマーヤは理解できていない。
「そういえばコレを貰ったとき、行商人のオッサン変なこと言っていたわね。説明書はしっかり読んだほうがいいって。副作用がどうのこうのとか。ま、私には関係のないことでしょーけど」
正当に購入したわけではない。
行商人にマーヤの身体で誘惑し、手に入れたのだ。
元々マーヤは普段から魔法の訓練もしなかった上、大きくなってからは滅多に魔法を使うこともなかった。
だからこそ、この危険な緊急用薬品の副作用も甘く見ていたのだ。
魔力増幅薬は、魔力を極限にまで増幅させることができる優れものだが、魔力を使いすぎると魔法自体が二度と発動できなくなることをマーヤは知らなかった。
「ま、読むのもめんどくさいし、どんな副作用が来ても私なら平気でしょう! 昔、風邪ひいたときに飲んだ薬も、副作用があるって書いてあったけどなんともなんなかったし!」
マーヤは余裕の表情で魔力増幅薬をリュックにしまい込んだ。
♢
「父上、彼女がマーヤです」
「うむ」
「は、初めまして皇帝陛下。両親に捨てられ、孤児院で育ちました。小さいころから魔法が使えて、当時は孤児院の中では有名でした」
マーヤは真っ先に自分の過去の自慢できるエピソードだけを伝えた。
少しでも凄い人間なんだとアピールしたかったのである。
「その割にはマーヤという名など、聞いたこともなかったが」
「そ……それは私の魔法を誰も認めてくれなかったからです。でも、ラファエル様は私の才能を認めてくださったんです」
「魔法とは無縁のラファエルが……か。とはいえ、論より証拠。其方の魔法、この目で見届けよう」
皇帝からはまるで信じてもらえていないとマーヤは感じていた。
だが、マーヤには絶対の自信があり余裕の表情をしている。
「こんな場所で発動して良いのですか?」
「構わぬ。いざとなれば向こうで待機している王宮直属の魔道士がマーヤの魔法を打ち消してくれよう」
「もし私の魔力が優っていたとしても知りませんからね」
「大した自信だな。あやつらは国の中でもトップクラスの魔力を誇る魔道士だが……」
皇帝の言葉を聞いて、マーヤは魔道士たちの方を向き、勝ち誇ったような表情をしていた。
「せっかくなので、先日追放した水の聖女リリアと同じ水属性を放ちましょうか。『水よ来たれーー』」
躊躇することなくマーヤは魔法を発動し続けた。
「なんだと……!?」
皇帝だけでなく、魔道士たちも驚きの表情を隠せないでいた。
王宮の中庭が水浸しになってしまうほどの大量の水をどんどん具現化していったのだ。
「おぉ、流石私の婚約者にふさわしい力……」
「凄いでしょう! 全然疲れませんわよ。まだまだ放出できますけど良いんでしょうか?」
「わかった! もう良い!」
マーヤは勝ち誇った表情をしながら発動を止めた。
『浄化!!』
王宮直属魔道士の一人が水を消し去る魔法を発動して、マーヤが具現化した水は綺麗さっぱりなくなる。
これにはマーヤも悔しかった。
王宮の魔道士に負けてなるものかと、対抗意識を燃やしていた。
「これでは私の真の力を発揮できていませんわね。もっと発動しても良いですわよ」
あまりにも自信があるマーヤを見て、魔導士たちも魔力の多さを認めるしかなかった。
魔導士たちは当然、危険な魔力増幅薬の存在は知っている。
だが、わざわざこんな時のために飲むようなバカはいるわけがないだろうと考えているので、マーヤが魔道具を使っていたことなど微塵にも思わなかったのだ。
故に、魔道士たちがマーヤの発動した威力が自分たちに近い威力を持っていると判断して称賛の拍手を送る。
「ふむ……マーヤとやら。疑ってすまぬ。ラファエルが勝手に連れてきた婚約者だからロクな女ではないと思ってしまっていた」
「誰にでも勘違いってありますからね」
「其方の魔力は素晴らしいことは理解できた。謝罪の意味も含め婚約は認めよう」
それを聞いてマーヤもラファエルも飛び跳ねるように喜んでいた。
「だが!」
「はい?」
「マーヤよ、王女としての嗜みがまるでなっとらん。ラファエルと結婚するのであれば、王族としての嗜みを学習せよ」
「学習!? 私はそんなバカだというのですか!?」
「そうではない。無論、そのような機会がなかったのだから知らぬのも無理はない。これから覚えれば良い」
マーヤは結婚さえできれば自由に生きていけると思い込んでいた。
勉強など糞食らえと思っていたマーヤにとって、地獄以外の何者でもない。
「マーヤ。私のためにしっかりと学習してくれたまえ」
「馬鹿者! お前もだラファエル……」
「なぜ私まで!?」
「今まではリリアの追放のために全力を注ぐためにある程度放任してきた。だが、お前の行動もあまりにも王族に反しておる。王位継承までの間、一から学習し直すのだ!」
「げ……」
ラファエルもマーヤも予想外のことを命じられて喜びが一気に絶望へと変わる。
だが、二人ともどうやって学習から逃げようかと必死に考えているだけであった。
更に、マーヤはこのとき魔力増幅薬の仕組みに気がついていなかったのである。
今回マーヤ本来の百倍以上の魔力を薬に頼って一気に放出してしまったため、もう二度と魔法を放つことすら出来なくなったことを知らなかった。
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