第15話 表彰式
「これより聖女リリア様のご活躍による表彰を開始する」
宰相の宣言で、大臣や兵士が姿勢を整えた。
私はカサラス国王陛下が座っている玉席の前で跪いている。
「此度の活躍による国への貢献、大変大儀である」
「も、もったいないお言葉……」
私は噛んでしまうほど緊張していた。
エウレス皇国では、玉座の間で拷問されて泣かされそうになることは度々あったが、表彰されたことは一度もない。
国王陛下とはこの場所で初めてお目にかかったので、緊張のあまりに手足まで震えていた。
陛下は、見るだけで威厳がありそうだが、目は優しそうで顔も整っているダンディなお方である。
さすがカルム様の父親という雰囲気を感じる。
ただ、カルム様同様に身体はかなり痩せ細ってしまっている。
「こちらへ来てもらってからの活躍は部下から聞いていた。それにも関わらず今まで挨拶ができず、すまなかった」
陛下はいきなり頭を下げてきた。
この場面でするような行動ではない。
「あ、頭をあげてください! 私などにそのような行為は……」
「其方のおかげで私の病気も治ったのだ。礼を言わないわけがなかろう」
本当に私は何もしていない。
心当たりが全くなくて動揺してしまう。
「私は栄養失調で倒れてしまったのだ。だが此度の活躍により新鮮な水を飲み、野菜を食べて元気になったのだ。命の恩人に報いたいのだが」
「いえ、お気になさらず。元気になられて良かったです」
「これだけのことをしたというのに……謙虚なのだな」
いや、そういうことではない。
話を聞いていて、私の力が理由で元気になられたのかもしれない。
それは光栄なことである。
ただそれだけであって、何かが欲しいとか報酬くれとかは全く考えていなかったので、どうしたらいいのか困っているだけだ。
「爵位を授与したいと思っているのだが」
「大変名誉なことではありますが、私は今後とも聖女として活動をしていきたいと思っています」
こればかりは断るしかなかった。
国に貢献したい気持ちはあるのだが、貴族階級はどうも苦手なのだ。
それに、現状は将来的に自由な生き方を望んでいる。
今まで隔離されていたからこそ、世界を色々と知りたいのだ。
「ふむ。無理強いはしないでおこう。だが!」
「え?」
「私の命と国を救ってくれた其方にせめてもの報酬を与えたい。例のものを!」
宰相がずっと盆の上に持っていたものを私に差し出してきた。
「中に金貨で二百枚入っている。それから横にあるメダルは国の通行手形だ」
「は、はぁ……」
無意識に受け取ってしまった。
メダルをよく見てみると、『リリア』と名前と水のマークが彫られている。
「それは国の身分証明のようなものだ。これを見せればカサラス王国内の検問所は全て素通り、国の運営している施設は全て無料で使えるようになる。活用してくれたまえ」
「ありがとうございます」
素材も金のようでとても綺麗だ。
しかもこれはルビーと遠くに出かけたときにも役立ちそうだ。
いや、浮かれている場合ではない。
「しかし陛下! 金貨二百枚は……」
金貨一枚あれば、一ヶ月は不自由なく生活ができるほどの額である。
それが二百枚ともなれば、おそらく貴族の年俸に近い額だろう。
「少なかったかね?」
「いえ、むしろ逆です」
慌てて首を横に振りながら返そうとした。
すぐ宰相に止められてしまったが。
「これからも其方の活躍を期待しておる」
金貨系の硬貨は世界共通硬貨だ。
エウレス皇国では、金貨の十分の一の価値である銀貨一枚が毎月の報酬だったっけ……。
だからこそこんな大金をいきなり手に入れてしまい、どうしたら良いのかわからなかった。
今回の表彰は私一人の力では成し遂げることは出来なかっただろう。
カルム様やイデア、周りの協力があったからルビーを呼び出すことが出来た。
ルビーと共に、今度は王都だけでなく国中にも雨をもたらせるように頑張ろうと、通行手形メダルを見ながら心の中で誓った。
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