第11話 ルビーの復活

「きゅーーーー!」


『中に入って』と、私たちを誘導しているようだ。

 洞窟の入り口付近まで近寄ったところで、カルム様とイデアが慌てて私の手を掴んだ。


「……お嬢様! まずは私が安全確認しますので!」

「リリア! いきなり入っては危険だろう」


 洞窟の存在で頭がいっぱいになってしまい、忘れていた。

 カルム様たちにはルビーが見えていないのだった。


「私の聖獣『ルビー』が姿を現して誘導してくれたので、きっとこの中は大丈夫だと思います」

「なんだって!? リリア!? まさか生命力を削って聖獣を呼び出したというのか?」


 驚いたように声をあげたカルム様に、私は首を左右に振る。


「いえ、急に現れました。おそらくこの洞窟に反応して……。私にしか見えない状態のようですが、今もルビーはそこに」

 ルビーに向けて指を差したが、二人には見えてはいない。

 カルム様は考えるように腕を組み、やがて頷いた。


「うむ……では厳重に注意をしながら進むか」


 ──ゴゴゴゴゴゴゴゴ……


 私たちが洞窟に入った直後、岩が閉まって真っ暗闇になった。


「……ライト!」


 イデアが光魔法を発動して、手から灯をともし洞窟内が再び明るくなる。

 中を見回すと、馬車も余裕で通れるくらいの広さだった。

 どこまでも下り坂が続く一本道。

 外よりも湿気があり、水不足で喉がカラカラの私たちにとって居心地は悪くはなかった。


 ここにきて何かあるだろうと期待に胸を膨らましながら、ルビーを信じて洞窟を進んでいく。


 奥へ進めば進むほど、まるで来るものを取り込む罠のように、長く長く道が続いていた。

 退路も絶たれ、イデアからは聞いたこともないような弱音が漏れ聞こえてくる。


「……お嬢様、これいつまで……」

 普段は何事も動じず完璧にこなすイデアなのだが、不安げにこちらを振りむいてきた。


 私もつられて弱音がでてしまう。

「まさか、罠なんてことは……」


 ルビーの導きと信じた私だったが、浅慮だったかもしれない。

 危険な洞窟に皆を巻き込んでしまったと落ち込んでいると……。


「そんな顔をするんじゃない」

「カルム様……」

「心配するな。私は国宝の半分近くを賭けてリリアを、そして水の聖獣を招いたのだ。ルビーの導きに誤りがあったとすれば、私の責任。リリアが気に病むことはない」


 カルム様の優しさが身に染みる。

 言葉はそこで終わらなかった。


「それに」

「え……?」

「私は信じている。リリアを、そしてルビーを。リリアもそうだろう? ルビーは君の信用に足るという、確固たる自信があったんじゃないか?」


 そうだ……。

 私がルビーを信じなければ、姿の見えない皆が信じてくれるはずもない!


「ありがとうございます!」

「良い顔になった」


 カルム様の笑顔に思わず見惚れる。

 そんなことをしている場合ではないというのに……。

 ただ、そのおかげで心が軽くなった私は、ルビーの導きを信じて洞窟を進んだ。


 きっとこの先に聖なる泉があるはずだと信じて。

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