第12話 洞窟の中

 暗闇を照らすイデアの魔力も気になり始めた頃だった。

「ここが、最深部?」


 泉を中心に草木が生い茂る楽園のような場所。


「……水!」

「待て! 罠かもしれないだろう! 慎重にいくのだ!」


 そう言われても道中水魔法を発動してこなかったため、全員喉が乾いている。

 喉の乾きに抗えそうにないという気持ちはよくわかる。

 だがそこは流石にここまでカルム様を慕って着いてきたイデア。


 しっかり仕事モードに切り替わり、自ら泉に向かっていき水を毒味する。

 そして……。


「……殿下! 間違いなく水! ……飲めるし美味しい!」

「本当かっ!」


 思わずカルム様も駆け出した。


 ♢


 私も肩に乗っかっているルビーと一緒に泉へ向かって走っていく。


「はぁー、生き返りますね……」

「……やはり具現化した水よりも、天然の水の方が美味しい」


 浴びるほど水を飲んで、これまでの疲労が一気に吹き飛んだようだった。

 ルビーは水を吸収したことで、ついにその姿を現すことができた。


「……かわいい! この子がもしかして」

「私の聖獣『ルビー』よ。見えるようになったのね」

「きゅーーーー」


 ルビーはイデアの元へとふわふわと飛んでいき、頭の上に乗っかった。


「……ルビーちゃんですか! ……かわいい!!」

 ルビーの背中を撫でて、満足したようににこりと笑う。


「これがリリアの聖獣か……素晴らしい」

「ルビー、カルム様にも挨拶」

「きゅーーーー」


 カルム様のところにもふわふわと飛んでいき、腕の上に乗っかった。

「私はカルム=カサラス。此度のルビーの活躍──」

「きゅーーーー!」


 ルビーはすぐに気まぐれに飛んでいってしまい、泉の水を吸収しながら水浴びを楽しみ始めた。


「カルム様、申し訳ございません……」

 申し訳なく真剣に謝ったのだが、カルム様はむしろ微笑んでいた。


「良いのだリリア。ルビーの楽しそうにしている姿を見て私も癒されている」


 ルビーは昔からマイペースな性格があったから、カルム様の挨拶中でもお構いなしだった。

 そういえばエウレス皇国でも、ルビーの失礼な態度で大臣や王子を怒らせてしまい、何度も私が謝ったことがあったっけ。


 その時は何度も頬を引っ叩かれていた……。

 対してカルム様は怒るどころか笑ってくれる。


「きゅーーーー!!」

「ルビー!?」


 ルビーの突然の大きな声とともに、洞窟内にもかかわらず雨が降り始めた。


「もうそこまでの力を取り戻したというの!?」

「きゅーーーー!」


 驚きと同時に期待があった。

 エウレス皇国で力を発揮していたルビーよりも、今の方が明らかに強く見える上に、見たこともないような澄んだ水を降らせているのだから。


 ──ルビーにこれだけの力があれば、きっと王都を水の都に変えることだって!


 ルビーは雨を降らせながら、勢いよく水を吸収し始めて、本来の大きさに姿を変えたのだった。

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