第5話【Side】リリアを追放したあと

「パーティーでマーヤとの婚約も皆に伝えることができた。これで残るは婚約したい旨を父上に伝えるだけだが」


 王宮から少し離れた富裕層が住む一角にマーヤの住居がある。


 リリアを追放した当日、マーヤの家で二人は抱き合っていた。

 マーヤを肩に抱き、マーヤの胸元が大きく開いた服の隙間を覗き込んでいる。


「本当に良かったのですか? ウィンド陛下に認めてもらう前に婚約まで宣言してしまって」

「なぁに、マーヤは魔道士の中でもトップなのだろう?」

「も……もちろんですわ」


 一瞬だけ言葉の返答に悩んだマーヤだったが、ラファエルは気にもしていなかった。


「リリアを追放した上に財宝まで手に入る件は父上もお喜びになっていた。これだけの功績があれば私の結婚相手にも文句は言わないだろうし、実力もあるならば父上も文句は言うはずもない」

「実力、そうですね……」


 マーヤは言いよどむ。

 自分の魔道士としての実力を低いと思ってはいないが、マーヤの魔法は見栄を重視した派手さだけの魔法だ。

 それはまるでマーヤの生き方そのものだった。

 魔道士の才だけで王家に嫁ぐほどの力などないことくらい、マーヤが一番よく理解していた。


 とはいえそのことを重く受け止めるだけの思慮深さも、マーヤは持ち合わせていない。

 歯切れが悪くなったのは自分のコンプレックスに引っかかっただけで、それがどんな事態を招くのかまでは考えが至っていなかった。

 だからすぐに、こんなことを言い出す。


「それにしても、私は少々皇太子妃としてはみすぼらしいのではないでしょうか。例えば美しい首飾りや指輪があれば、私も胸を張って王子の隣にいられるのですが」

「マーヤのためならば何でも用意しよう。なぁに、財宝の山で溢れかえっているのだからいくらでも分け与えようではないか」

「さすがラファエル様ですわー!!」


 ラファエルはマーヤのワガママやおねだりに何でも従う。

 マーヤの持つ美貌とその豊満な身体に魅了された彼の様子はまさに溺愛と呼ぶにふさわしかった。

 マーヤもラファエルの側にいれば贅沢のし放題だと思って婚約をものにしたのである。


「では私はそろそろ王宮へ戻る。父上もそろそろ出張からお戻りになられるころだ。パーティーに参加できなかったのを悔やんでいたからな。盛大に盛り上がったことを伝えねばならんのだ」

「私も王室で堂々と住めるように動いてくださいねー」

「任せておけ」


 ラファエルはマーヤの家を出ていき、待機していた馬車にニコニコしながら乗り込んだ。

 この後、ウィンド皇帝から大目玉を喰らうことも知らずに。

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