第4話 パーティー再び

「こ……このような綺麗で広い部屋を私が使って良いのですか!?」


 王宮の最上階の部屋へ案内された。

 窓の外からは、王都の街並みが観れて、今は夕暮れが沈んでいく姿が綺麗だった。


 部屋にはお洒落で綺麗なお姫様ベッドまで設置されていて夢のようだ。

 エウレスにいたときの自室とは天と地の差である。


「……勿論です。ここはお嬢様の部屋なので」


 私は言葉が出なかった。今まで王宮の掃除道具や雑具が置いてある倉庫で寝ていたのだから。


「イデアさん、ありがとうございます」

「……敬語はご遠慮いただき、イデアとお呼びください。早速ですが、今晩のパーティーのドレスを選んでいただきたいのです」

「え、私はドレスなんて……」


 先日は、パーティーに呼ばれたと思ったらあの有様だった。

 綺麗なドレスがあんなことになってしまったトラウマは、簡単に消すことができない。


 だが、イデアはお構いなしに私の背中を押した。


「ちょ……ちょっと!?」

「……似合うと思いますが。お嬢様のドレス姿をお見せしたら、カルム殿下もお喜びになられるかと」


 そもそも今までとは全く違う環境にいる。

 私は頷いて前を向くことにした。過去にいた国で起こったトラウマも全部乗り越えなきゃ。


「じゃあ……着てみようかな」


 膝丈が短めで胸元も少しばかり開いてはいるが、好きな色でデザインも可愛かったので、私は水色のドレスを選んだ。


「……お嬢様、これは良い! ……凄く良い!」


 私を凝視してやたら息が荒くなっているイデアがちょっと恐い。

 しかも、さっきまでの大人しめな口調から一気に声が荒くなっているのだ。


「……やはりこのドレスをお嬢様が着るならばこの靴、いや……こっちか……。あ! 髪飾りもこれよりこっちの方が……」


 どうやらイデアはドレス選びを真剣に考えてくれているから、声も荒げてしまっているようだ。

 私のために一生懸命なイデアを見ていたら自然と微笑んだ。

 こんな感情いつぶりだろうか。


「ありがとう、イデア」

「……何を言っているのですか? お嬢様は可愛いのですから、より完璧なコーディネイトでパーティーへ向かうべきです!」

「そんなこと今まで言われたことなかったわよ」

「……他国を悪く言うのは失礼ですが、エウレス皇国の方々は見る目がなかったのでしょう」


 その後も、あれでもないこれでもないと、ドレスとアクセサリー選びは長く続いたのだった。



「その姿も美しいぞリリア様。昔と……あ、いや、……オホン! ケホッケホ!」

「昔?」

「いえ、失礼しました。どうかお気になさらず」


 王子らしくない慌てた姿を見ていたら、つい笑ってしまった。

 王宮に来てから安心してしまい、気が抜けてしまっていたのだ。


「も……申し訳ございません!」

「いえ、リリア様は笑顔でいられた方が美しい」

「そ、そんな」


 つい顔を赤らめてしまう。


「その笑顔をここにいる皆にもお見せください。民衆もこれだけ集まりました。皆、リリア様を歓迎してくれた方達です」


 パーティーは王宮内だけでなく、王宮の外まで大賑わいになっていた。

 エウレス皇国の時のような、私に対する嫌がらせパーティーとは全く別のものだった。


 みんなの暖かい視線と歓迎が嬉しく、少しばかり涙が出てきてしまった。


「さ、リリ……リリア様、私と一緒に踊っていただけますか?」

「はい、カルム王子殿下」


 私は何も考えずに夢中で踊り続けていた。


「さすがリリア、いや失礼、リリア様。相変わらず華麗な踊りだ……踊りですね」

「ふふ……エウレス皇国では唯一の生きがいがダンスでしたから」


 とは言っても、ダンスはほとんど独学で踊る相手などいなかった。

 昔は何度かパーティーに連れてってもらったことがあって、それ以来ダンスが好きになったのである。

 またいつの日か、誰かと踊れるように練習だけはしていたのだ。


「ならばこの国で、他にも色々な生きがいを見つけるといい……いいですよ」


 カルム王子の優しい言葉と、とても可憐で美しい踊りに、またしても心臓の鼓動が早くなって胸がドキドキしてしまった。

 昔の何かのパーティーのときに、ダンスで同じように胸がドキドキしていたような記憶があるのだけれど……誰だったのかが思い出せない。


「すまない……夢中になってしまうと口調が砕けてしまい馴れ馴れしく……」

「いえ、むしろ普段も砕けていただけませんか?」

「そうか? それは嬉しい。では私のことも王子を抜いて呼んでもらえないだろうか?」


 驚き躓いてしまった私を、カルム王子の大きな体が支えてくれた。

 不本意ながら、カルム王子の匂いもわかるくらい密着してしまった。


「大丈夫かリリア様?」


 大丈夫なんかじゃない!

 恥ずかしさで心臓が破裂しそうだった。


「わ……わわ、私のことはリリアとお呼びくださいカルム様」


 頭がパニックになっているせいか、勢い任せにお願いをしてしまった。


「もちろんだ、リリア。さぁ、ダンスの続きを……」

「は……はい」


 言葉使いを楽にくれたおかげか、カルム様とは随分と打ち解けることができた。


 今まで生きてきて、一番楽しいパーティーとダンスだった。

 早くもカサラス王国に来て、幸せを掴んでしまった気分である。


 さて、明日からは早速聖女としての役目を果たしましょうか。


 夢のような時間が終わり、ベッドに横になると、ベッドの心地良さと今までのエウレス皇国での疲れがドッと出て、そのまま深い眠りについた。

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