第3話 カサラス王国
王都の外には、更に複数台の馬車が待機していた。
ここで王子の護衛をしていた者が一旦降りて別の馬車へ乗り込む。
ここからは私と王子は二人きりになってしまった。
近くにいるとはいえ護衛が離れることに驚いた。
ラファエルでは考えられない。
それが顔に出てしまったのか、降りてきた護衛の兵士が笑いながらこう言った。
「ご心配なさらず、聖女様。王子はお強いですよ、私なんかよりよっぽど腕が立ちますから」
「おい……それでは困るだろう」
王子が兵士に苦笑いしながら行った後、私の方を向いた。
「とはいえカサラス王国は既に価値のない国となっていますし、私の命を狙うものなどいないようなものですからな。主にリリア様を守るための護衛として連れてきたのですが、何かあれば私がしっかりと守りますよ」
「私なんかがそんな……」
本当は感謝したくて顔を見て話したいのだが、それができない。
美形で優しそうな瞳の王子を直視できないのもあるが、アザのある顔を見せて心配させてはいけないとも思っていた。
「リリア様、これを……」
王子は不思議なタオルのようなものを私に渡してきた。
「こ……これは?」
「回復系の魔道具です。それを頬にあててください」
アザの部分は隠していたつもりだったが、しっかりと見られていたようで少しばかり驚いてしまった。
周りをよく見ている王子殿下なのだと思う。
「ありがとうございます」
早速頬にあててみた。
腫れてジンジンと傷んでいた痛みがどんどんと消えていく。
「傷がある箇所にあてておけば完治しますので、どうぞ遠慮なくお使いください」
身体中の至る部分に魔道具を使ってどんどん回復させていく。
久しぶりに身体中からの痛みが消えて嬉しかった。
「ありがとうございます。痛みも無くなり、怪我やアザも消えました」
「当然のことをしたまでですよ」
助けてくれたカルム王子の顔をついつい眺めてしまった。
「リリア様らしい顔になりましたね」
「ふふ……初対面とは思えない言い方ですね」
「──!? し、失礼しました」
「いえ、嬉しいんです。ありがとうございます」
王子のおかげで、久々に私は笑うことができた。
今まで心を許せていたのはルビーだけ。ここ数年、人間同士でまともに会話したことすらなかった。
だからこそ、私にとってはとても新鮮だったのだ。
♢
長い道のりを経て、ようやくカサラス王国の王都が見えてきた。
乾燥していて、温暖な気候。
王都の周りには湖と川のような痕跡があり、本来は王都全体が水堀で囲まれているのだろう。
だが、乾き切っていて今は地面の底がむき出し状態である。
「こんな国に連れてきてしまい申し訳なく思っています」
「いえ、私の使命はしっかりと果たしたいと思います」
馬車の中で王子と過ごしたおかげで、少し話ができるようになった。
私が思っていたような、また酷い扱いを受けるのではないかという心配事は無用だったようである。
カサラス王国に呼ばれたのは聖女の力が目的なのは間違いないのだが、何故か王子はこのことを口にしなかったのだ。
だからこそ、ここにきて私から聖女のことを口にしたのだが……。
「リリア様、あなたをお連れしたのは表向きには聖女様としてのお力を期待しています。でも、実は私には別の目的があって呼んだのです。聖女の力はくれぐれも無理をしないように」
「え!? あれほどの財宝を渡したというのにですか? 聖女の力以外で何か?」
「そ……そのうち話したいと思いますので今はお気になさらずいてくだされば」
「は……はぁ」
何故か私から視線を背けて反対側を向いてしまった。
カルム王子の思惑がよくわからない。
聖女の力以外で何の目的があるのだろうか。
馬車は王都内部へ入り、真っ直ぐ王宮まで進んでいった。
「これはまた豪華な……」
ついに王都の一番奥に位置する王宮に到着した。
王宮はとても綺麗で、エウレス皇国の王宮よりも一回り大きく豪華である。
だが、反対側は完全に枯れてしまった湖の亡骸。
これではもしも戦争になってしまえば、こちら側から攻められてしまいひとたまりもない気がする。
カルム王子が先に降り、私が馬車から降りる際に手を添えていただいた。
「足元に気をつけてください」
「ありがとうございます」
「礼には及びません。当然のことです」
降りるまでの間、優しく手を握り続けてくれた。
相手は一国の王子。自惚れてはいけないのに、いたずらに胸がドキドキしてしまう。
心臓の鼓動が早くなるのが自分でもわかっていた。
周りに使用人さんが整列して出迎えている。
「本来ならば私がご案内をしたいところですが、この後パーティーの準備がありますので、これにて失礼致します。リリア様のことは今後配属させる予定の専属メイドに頼んであります。彼女に何でも言ってください」
黒服をベースに、膝丈より少し上のメイド服を着た女の子がお辞儀をした。
私と同い年くらいの十七歳くらいだろうか。
この子だけが他の使用人達とは見た目や服装、そして雰囲気が違う。
「……イデアです。よろしくお願いいたします」
「彼女が専属メイドなら心配無用ですので。イデア、後のことを頼む」
そう言ってカルム王子は、すぐに王宮の中へ入っていった。
言動から察するに、イデアという女性は相当信頼されているようだ。
私はメイドさんや他の使用人さんに囲まれた。
私はお辞儀をしてから、持ってきた物を馬車から下ろそうとしたが、すぐに執事と思える人に止められてしまった。
「聖女様の荷物は我々が運びますので。A班とイデアは私と同行し部屋にご案内し、聖女様に似合いそうなドレスを用意。B班は直ぐに歓迎パーティーの準備をするように」
「「「「「「「「畏まりました」」」」」」」」
このような待遇をされるとは思っていなかったので、驚くばかりだった。
イデアさん達に案内され、王宮内へと入っていく。
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