アンリエッタの元婚約者

目論見が外れた。


アンリエッタの元婚約者の家では、毎月送られてくる大量のお金を、嬉しさと苦々しさの半分の気持ちで見つめている。


アンリエッタの魔力はこの国随一だ、学校での成績もよく、貴族のおぼえも良かった。


だが、見知らぬ冒険者の看病で大事な婚約者を疎かにするとは、言語道断である。


だから、無茶な金額の慰謝料をふっかけ謝らせようとした。


払えないとなれば、一生奴隷のように付き従わせることが出来ると思ったのだ。


アンリエッタは頭脳明晰だが、男を立てるという事をしなかった。


婚約者であったイザークは内心可愛げのないアンリエッタに、苛立ちを覚えており、何故自分を立てて、一歩身を引かないのかといつも注意をしていた。


今回もそうだ。


自分の事を忘れ、冒険者などと一夜を過ごすなど、あり得ない。


だから深く反省し、床に頭をつけて土下座し、一生イザークの言う事を聞くと謝れば許してやるつもりだった。


世間も最初はイザークに同情的だった。


冒険者を助け、婚約者を捨てたというアンリエッタは非難された。


しかし寝ずの看病、そして冒険者が瀕死の重症だったこと、あれをほっといたら死んでいたと彼を診た医者と呪術師が言ったことから、周囲の信用も回復していく。



寧ろ瀕死の人を見返りもなく助けた聖女のような人だと好意的な見方に変化した。


ロキも真面目にアンリエッタへ恩返しをし、慰謝料の支払いも手伝っている。


ロキはギルドの中でも指折りの実力者だ、ダンジョン攻略は目をみはる物があると慰謝料の額も見る見る減っていき、街でも有名になっていった。


イザークは苦々しい思いでそれらを聞いている。


間違ったことはしていないのに、世間からは心の狭い男と呼ばれるようになってしまった。


アンリエッタは今回の婚約破棄、そして慰謝料の為に、貴族籍を剥奪となっていた。


それはやりすぎだという事を周囲に言われ、ますます肩身が狭くなる。


(追い出したのはアンリエッタの実家なのに)

だが、きっかけはイザークの言い渡した婚約破棄だと言われ、仕方なくイザークはアンリエッタを連れ戻しにかかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る