第42話 あわてない
何気ない行動だった。ついでのような、視線の流れは途中で止まる。
それに気づいたら、嬉しくて弾む心を抑えるのが難しかったけれど彼女と一緒に見るために、抑制する。
「猫、来てる」
察知したのは、私の言葉を聞いてからだったけれど彼女の行動は速くて、ほぼ頭の位置を変えずに富士山の隙間をそっ、と見た。
「警戒してるわ」
私と同じように小さな声で彼女が伝えてくる。ちょうどベンチの辺りを猫は見ているようで警戒はしているのだろうが、私たちに注意を払うのは───。
「見た」
猫の前足に力が、それに表情も先ほどまでの思案しているような微笑ましいものではなくなってしまった。
私はじっとして動かず、喋らず置物となる。彼女は猫の視線を気にしながらゆっくり、ゆっくり身体を横に動かし猫草が見えるようにして人差し指をぴんと伸ばして興味を引き、そこでまだ見ていて貰おうとしている。
猫の前足は、方向転換をいつでもできるように野性的なしなやかさで美しいラインを作っているが、彼女の動きを注視しているのでその先の軽やかなステップはまだ見られないでいる。
しかし、この時間は彼女が猫草を九回と少し人差し指で往復した瞬間に終わってしまった。
「伝わったかしら……」
私には、伝わったのだがあの猫にはどうなのだろうか? そんな迷いのある声を出したら、彼女の行き場をなくしていた人差し指に突かれてしまった。
「うっ」
「ふふっ」
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