第40話 聞こえる?
彼女はテーブルにメモ用紙を戻して、初唐の三大家に思いを馳せることもなく静かに裏庭への扉を開いた。
土に馴染んだと思われる猫草は艶やかで、彼女を安心させた。猫にかじられる日が来なくとも、猫草の成長を楽しめるなら─── そんな目をしている。
小春日和というには早いが、暑くない風を肌で感じるのは心地よくて私も花壇に余分に生えた草を抜いたりしながら、彼女の様子を見ている。
「見られてるから姿勢がいいでしょ?」
「背中が丸くないね」
「ふふっ、あんまり見ないで」
声の向きで私が彼女を見ていたのは伝わったようで、笑い声にやっぱりという嬉しさが入っていた……と思う。
彼女の好意は、そう受け取ってしまってもいいの? と不安を覚える。こちらの感じ方を試しているのだろうか? と思えるくらいには淡い。
私が分かりやすいと言われてきた人間なので、自分の表現の方がオーバーなだけかもしれないのだが。
ちゃんと作業もしているアピールで花壇の縁に抜かれた草がひとつの山になっているけれど、彼女は振り向いてくれずに猫草をまだ見ている。
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