第39話 手探りでいいの?

 それを経験したら、感じを頼りに失うかも知れない指先を見えない場所へさしだすそんな気持ちにはなかなか、なれない。

 一度、人生を終えたと区切りをつけた私のおまけのような生き方であれば元々、全て無いと思えているから腕くらいなくなっても……のままでいられたのに。

 彼女との暮らしで感じる恐怖は、さっき動いた心みたいに私の喜びのあとについてくる。そのは、私が生きなおす代償なのだろう。

 私が失うことで、彼女が悲しみや不快な思いをするのは意図しない事で、届かなくなるのも避けたい。


「おーよーじゅん、ぐせいなん、ちょすいりょ……」

「人の名前?」

「そう。響きだけで覚えてるの」

 彼女は、名刺サイズのメモ用紙を見ている。その紙には私の字が二行になってつながっていて、引っ掛かりなく彼女の目は最後まで流れた。

「これは、良く見せようとしてないわよね」

「そんなにしっかり見られるなら、時間を使って書いたんだけど」

「迷いのない字で素敵よ」

「探す必要がなかったからね」


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