第32話 さわさわ

 我々の日常で必要なことに猫草の作業がプラスされた本日も滞りなく午後をむかえられた。

 昼食の後、リビングのソファーでうとうとする彼女を横目に洗濯物を畳んでゆく。

「寝たくないのに、眠たいわ」

「……猫は来てないみたいだよ」

 畳みながらも時折、裏庭の猫草を確認しているが猫は来ていない。猫草は風に吹かれ、長さは変わっていない。

「うらぎりもの……」

 立ち上がったついでに彼女にタオルケットを掛けてみる。

「もう、口しか抵抗してないよ」

 タオルケットにくるまる彼女の唇も閉じさせて、眠ることをすすめた。

 洗濯物を片付けて作者が亡くなってから、かなりの月日の経った小説を夕食を作る前の時間を使って読んでいる。

 人が思い考え行動する、しない理由が不可思議で言葉にできない事を小説にしている作者の書いた理由を探す旅のような読み方は、程よい疲れを感じさせてくれる。

 教育により作られた私の考え方に不満はないが、小説家の文章から受けとる事に両親のフィルターが作用されているのを感じる度、理不尽な愛に悩まされてしまう。

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