第30話 帰り道

「猫草を植えたら、庭を眺める時間が増えるね」

「あの窓の掃除を念入りにしましょう」

 今が幸せで……その幸せは、続いてゆきそうに思えているからこういう気持ちになっている。彼女との出会いがなければきっと猫草を買う日は、来なかった。

 この帰り道の景色は特別なんだと改めて感じる。

 どうしようもなく、安定なんてしないこの事はずっと続くのだろう。思い出すたびに、不安を感じるこの事は消えたりはしないのだろう。

「秋は、花壇の─── 冬もだけど花がないから」

「あの花壇、好きよ」

「いつも水をありがとう」

「ふふっ、今日からは猫草にもね」

 別に、歩く速度は変わっていないが家に近づくのは嬉しい。でも、この時間も大切にしたい。

「疲れはある?」

「大丈夫そうよ」

 声には変化を感じないが、少しだけ顔色に家に居るだけでは見せないものが出ている気がした。

「ふふっ、前を見て歩きなさい」

「はい」

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