第28話 白猫がボス
お互いに一つめは、パリパリのおにぎり。
口にするたびに、心地のよい音がしている。彼女の笑顔が具材にたどり着いたらさらに輝いて見え、私はお茶を飲みながらそれだけで満足してしまう。
彼女は、前を向いておにぎりを食べていたのだが急に私をチラリと見て階段の方を示す。
はじめて見るとても大きな白猫が堂々と歩いていて、私たちを横切ろうとしている。
「おっきい」
「顔も迫力があるね」
二人とも急いで咀嚼し終えて、言葉を手短に交わして見つめ続けている。
白猫は、我々を一瞥して変わることなく堂々と横切ってゆく。寄らば切ると足取りもボスの風格があり縄張りの見廻り中なのだろうか、裏側の雑木林から枝の折れる音がすると足を止め、鋭く睨んで警戒を怠っていない。
「あの猫を見られただけでも充分ね」
「おにぎりも美味しかったよ」
「そうね」
食事を終えて、階段を下りながらも彼女は白猫の美しさを褒め称えていた。毛並みもよろしく、首輪こそ見えなかったが野良猫とはちょっと思えない姿だった。
疲れも感じず道へ戻り、カラビナ付のエコバッグは畳んで腰に引っかけてある。
「裏庭まで縄張りを広げないかしら……」
「さすがに、距離があると思うけど、あの白猫さんならって思わせるね」
「ふふっ、猫草を手に入れなきゃね」
彼女の微笑みはいたずらで、ゆっくりと好きが溢れ─── その手を捕まえてこのまま歩きたいと引き寄せる。
「私もそういう気持ち」
「よかった」
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