第10話 快適

 花木鋏の鋭い切り音。

 耳をすますと水音が落ちてくる。

 三回ほど、その繰り返しを聞くと水を使う音がしばらく続き彼女はテーブルをさらに彩る花を手にまた軽い足音を、今度は近づけている。

「黄色と白、迷って赤にしたの」

「挿してみて」

「……」

「端の上の赤があるのが綺麗に見える」

「素敵な誉め言葉ね」

「サラダに負けてないね」

「負けないくらいにしたかったの。ふふっ」

 食事中は、言葉もなくきれいに食べてゆく。きっちりと食材に向き合う姿勢はお互いに好意を寄せて、淡く柔らかい思いを届けている。

 必要となるものは手の届く範囲にあり、調和を保って、

「ふふっ」

「うん」

 裏庭に散歩中の猫…見廻りの重要な行動中かもしれない猫が、可愛い鳴き声をあげた為に、お互いに微笑み合った。その行為で損なうようなものは何もなかったし、ふたりには更なる豊かさを感じさせている。


 食事を終え、食器を洗いテーブルを拭くことを二人で済ますと彼女が裏庭で食後のお茶をと、誘ってくれた。

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