第8話 足跡

「驚いたからだから」

「それだけ?」

「だけって、言えない」

 彼女は、私の言葉を聞いてふぅっと軽く息をはいた。それ以上はない様子で、スカートの裾をそっと膝へ寄せて手を重ねている。

 私はその動作を見た後、ゆっくりと立ち上がりご飯の準備をするためキッチンへと向かう。彼女は金塊の作業には戻らず、同じ姿勢で内側に入り込んだようだ。


 キッチンでは、生で口に入れられるような野菜を、5つほど選び包丁を使い切り分けてサラダを、作っている。

 私は、彼女の行動についての意味づけをすることもなくありのままを思い出し、ありのままを受け入れようとしてみている。彼女と離れないための私をつくろうとする必死さはどの程度、彼女に伝わってしまっているのだろう?

「その野菜を切る音、好き」

 まだ、半分の野菜は残っている。

「席を用意しますね」

 椅子を隣に、そして彼女を待つ。

「良い席ね」

 彼女の感情を、プラスへと変えられたみたい。

「アッチェレランド、アフレッタンド?」

「テンポプリモ」

 特に意識していたものでなかった為、こんな感じ? と最初は伺うような切り方だったが、彼女の好みに合っているようで静かに聴いてくれている。

 私の残していく音の跡を彼女はついてきているみたい。

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