第36話 幸せプリンパーティー
ひとしきり相手をしてもらって満足したのか、上機嫌のクイナがこちらにやってきた。
「アルド、パーティー、楽しみなの!」
「そうだろうな。でもまずはご飯だ。何が食べたい?」
いくらプランパーティーとは言えど、晩御飯抜きでプリンだけというのは流石にいただけない。
もしかしたらクイナは渋るかもしれないが……と思ったが、カウンターの向こうにいるマリアさんにビシッと手を上げて「お肉なの!」と主張する。
特に抵抗もなく少し拍子抜けしてしまうほどだったのだが、その謎はすぐに解けた。
「皆が、甘いものは辛いものの後に食べるとなお美味しいの! ソースかけて食べるの!!」
なるほど、どうやら常連さんたちがハシャギまくるクイナをうまく誘導してくれたらしい。
チラリと彼らの方を見ると、何人かがグッと親指を突き立てたり、頷いたりしていた。
ありがとうございますという気持ちを込めて会釈すると、何故か皆で乾杯をする。
うーん、今のは「クイナを酒の肴にしてるぜ」という事なのだろうか。
よく分からないがとりあえず、俺の奢りで一品あっちに持っていってもらうように追加注文しておいた。
クイナのステーキと、俺が頼んだ煮魚の定食は、それほど時間を置かずに運ばれてきた。
隣で元気よく「いただきますなの!」と言って肉を頬張り出したクイナのふりふりと揺れる尻尾をなんとなく眺めていると、仕事がひと段落したらしいマリアさんが再びやってきて話しかけてくれる。
「そういえば、どうだったの? 王城は」
俺とクイナの王城行きは、街中で引き起こしてしまった大騒動のお陰で呼ばれたという事もあり、結構噂が出回っているらしかった。
その前から二人にはちょっとだけその話はしていたんだが、これほどまでに知れ渡ったなら尚の事、お世話になっているこの二人には先に話しておいてよかったなと思っている。
彼女たちはお客の情報を言いふらしたりする人ではないので、物見遊山ではなくただの世間話として聞いたのだろう。
そしてクイナも、同じくただの世間話として答える。
「クイナ、トマトのお姫様になったの。あのお洋服は可愛くて好きなの。でも、お城は大きかったけど、あんまりだったの」
「あんまり?」
「うんなの。ここのご飯の方が美味しいし、お野菜もクイナが作ったやつの方が美味しいの」
「そんなこと言いながらも肉はお前、何度かおかわりしに行ってたけどな」
思わず隣からツッコミを入れれば「お肉があれば、よっぽどじゃない限りはおかわりするの」という、どうしようもなく食いしん坊な答えが返ってくる。
「お友達はできた?」
「できないの。変なのばっかり寄ってきたの」
「へ、変なの?」
大丈夫だったの? という顔で、彼女がこちらをチラリと見てくる。
変なのか……。
多分アレだな、突然クイナに求婚してきたーー。
「人間みたいな怖いやつとか、しつこいやつとかなの」
そう言いながら、クイナはステーキの最後の一切れをペロリと完食した。
……後半が多分例の侯爵子息なんだろうな。
しかし『人間みたいな怖いやつ』って、もしかしてハイグールと同列扱いなのか……?
哀れ、侯爵子息くん。
そしてマリアさん、そんな顔を真っ青にしてアワアワしながらコッチを見なくても大丈夫。
多分どっちもマリアさんが想像してるような、取り返しのつかないトラブルに巻き込まれてはいないから。
……前半のはそもそも人じゃないし。
これはあとからちゃんと説明しておかないと、多分要らない心配をさせちゃうやつだな。
「クイナ、食べたの! パーティー開催なの!!」
「あぁそうだな。マリアさん、お願いしてもいいですか?」
「あっ、うん、そうね」
俺の声でハッと我に返った彼女は、抱いた不安を振り切るように、一旦厨房へと消えていった。
「プリンたくさん食べれるの!」
ウッキウキで尻尾ブンブン、耳ピコピコなクイナに俺は、思わずフフンと鼻を鳴らす。
「ただのプリンじゃないぞ?」
「どんなのなの?!」
「もう来るもう来る」
見に行こうとしたのか立ち上がったクイナを、どうどうと言いながら座らせた。
するとグイードさんがやってくる。
クイナの顔の二倍の大きさはある皿を持って。
しかしクイナは皿の大きさになど目はいっていなかっただろう。
その上に、グイードさんの歩みに合わせてプルンプルンと揺れる黄色の物体があったのだ。
「プ、プププププププ、プリンなの!!!!!!!!!」
「お疲れ様、クイナちゃん。ご褒美プリンをご所望だと聞いて、ちょっと頑張ったんだ」
言いながら、彼がクイナの前に皿を置く。
プルンと揺れた絶妙な弾力の黄色いソレは、命名・桶プリン。
クイナには内緒で今回のために、特注で裏返せば中身が形を保ったまま綺麗に落ちる金属桶をダンリルディー商会に頼んで作ってもらい、作成したものである。
が、そのプリンには俺が知らないサプライズもしてあった。
「あっ、クイナなの!!」
「ホントだ、すごっ」
黄色いプリンの上からかけられたカラメル……までは、普通のプリン。
しかしその上から生クリームでクイナの似顔絵が書かれている。
しかも、めっちゃ似てる。
なるほど。
これは、マリアさんも「気合が入ってる」と言うわけだ。
「味もちゃんと美味しい筈だよ」
「すごいのグイードさん、天才なの!」
「はははっ、ありがとう。さぁ、召し上がれ」
「いただきますなの!」
そう言って、特大プリンの端をスプーンでプルンと掬う。
口に入れるとすぐに両頬を手で挟み、モグモグしながら幸せ心地な声を出す。
「美味しいのぉ~、クイナもう一生これ食べて暮らすの」
この日、グイードさんはクイナの胃袋を、もう一度しっかりと握り直した。
そして特大プリンはすべて、ペロリとクイナのお腹に入った。
――夕食を済ませてクイナと二人家に帰ると、玄関に何故かバラが二本置き去りにされていた。
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