第35話 クイナの才能、そしてパーティー会場へ



「プリンパーティーなのーっ!!」


 まるで掛け声のように言いながら、クイナが魔法を手から放つ。


 先程俺が「早く仕事が片付けばその分プリンも早く食べれるぞ」と言ったからか、それともクイナの中でプリンは炎を連想させるのか。

 どうやら『プリン』と号令をすると、火の連弾が具現化している。


 相手はリザード――竜族の中では比較的弱い方だとはいえ、一応炎の耐性を持つ魔物なのだが、そんな事をまるで感じさせないほど片っ端から胸の辺りにある魔石を狙い撃ちだ。


 お陰で今日の討伐依頼の対象であるリザートたちは、素材となる鱗や目や尻尾などが、傷一つなく採取できる状態で倒されている。

 今日のパーティーの資金を補って余りある状態になりそうだなと頭の端で思いながら、それにしてもと考えた。



 実はクイナが無意識でやっている「詠唱を他の言葉に置き換える」という手法は、無詠唱で魔法を行使するための鍛錬の一つとされているのだ。

 実際にそれができる者は世界的に見てもたったひと握りという話なのだが、もしかしたらクイナにはそういう素質があるのかもしれない。


「まぁ最初から、魔法の素質はかなりあったからな」


 保護者としては、やはりクイナの才能を伸ばしてやりたい。

 ただ実際に無詠唱ができない俺にちゃんと教える事ができるのか、いまいち自信がないのも事実だ。


「誰か、心当たりを当たるか?」


 だけど無詠唱ができるようになれば、クイナの価値がまた上がる。

 自衛の手段は増えるだろうが、その分目を付けられやすくなる。


 そうじゃなくても貴族と関わり合ってしまったばかりなのだ、できれば綱渡りはしたくない。



 誰かに教えてもらうにしても、秘密を守れる相手でなければならないだろう。

 そう思うとハードルがかなり上がる。



 じゃあやっぱり俺が……うーん、でも……。


「アルド! クイナ全部やっつけたの!!」


 クイナがテテテッと戻ってきながら言った。

 たしかに目の前にいた五体のリザードが、全部バタンキューしている。


「早かったな。最速記録なんじゃないか?」

「えへへーっなの」


 明らかに頭ナデナデをされにきたのでリクエストに応えてやってから、俺は「じゃあ」と息を吐く。


「リザードは俺が収納しとくから、クイナは先に薬草の方採取しててくれ」

「任せてなの!!」


 元気よく返事をした彼女は、タターッと薬草を採りに行く。


 最初は似ている別物を採ってしまう事もあったけど、今やもう間違える事はない。

 何事も慣れが大切だというが、クイナは最早慣れを通り越して薬草の目利きというスキルを身に着けているとも言えるだろう。


「もちろん今後も森には一緒に入る予定ではいるけど、この森くらいならもう一人でも、十分危なげないかもな」


 そんな事を呟きながら、俺はヨイショとリザードを持ち上げマジックバッグへと吸い込ませた。



 ◆ ◆ ◆



「クイナ、お仕事頑張ったのーっ!!」


 雄たけびにも似た声を上げながら、クイナが食堂の扉を開いた。


 いつもよりは少し早いが、夕方に近い天使のゆりかごには、既に飲み始めている客がそれなりにいた。

 クイナも俺ももう常連だから、同じく常連の彼らとは顔見知りを通り越して近所のおっちゃん状態である。


「おー、来たか、クイナ!」

「来たの! プリンパーティーなのっ!!」

「あ? パーティー?」


 何の話だと首を傾げた彼らの元に駆けていったクイナが、身振り手振りで「いっぱいのプリンでお腹いっぱいになる日なの!」と説明している。


 テンション爆上がりの彼女を置いていつものカウンターに着席すると、背中に白い翼を背負ったこの食堂――いや、食堂が併設されている宿屋の女将・マリアさんが「いらっしゃい」と優しく微笑んでくれる。


 いつ見ても可愛らしい人だ。

 本当に、もし旦那がいなかったら頑張ってアタックしたかもしれない。


「こんにちは、マリアさん。前もって言っておいたプリンの件ですけど――」

「えぇ、もちろん準備してありますよ。グイードがもう張り切っちゃって」


 言いながらフフフッと可笑しそうに笑う彼女に、「なるほど。これはグイードさん、かなり張り切ったな?」と思う。


 まぁでもクイナがあれほど楽しみにしているのである。

 張り切ってくれるに越した事はない。


「きっと喜んでくれると思うわ」

「ありがとうございます、いつもいつも」


 彼女たちには日々のご飯でも、クイナの友人としても、そして子供の親として保護者としての俺の相談にも乗ってもらっているのである。

 間違いなく、この街の中でも俺が頭の上がらない数人のうちの二人なのだ。


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