第24話 クイナ、さっそくコネを得る
ヤツラは、俺達を見つけると何故かガッシャンガッシャンとこちらに向かってやって来る。
クイナが若干隠れるように、俺の後ろに回り込んだ。
しかし気にはなるようで、自分の安全は確保した上で後ろからひょっこりと顔を出す。
一方銀色のヤツラは、1,2,3,4……総勢7人で俺の目の前まで来ると、とある人物を先頭にして停止した。
という事は、おそらくあの日執念深く追いかけてきた、そして先日串焼き屋で会話をしたあの男なのだろう。
顔が見えないのでどうにも感情が読みにくい。
恩恵の効果に頼ってみれば、感じられたのは義務感、使命感、正義感。
決して悪い感情ではないものの、こういうタイプの人間はたまにそれらを盾に妙な暴走をする事もあるので完全に安心も出来ない。
「来たのか」
「招待されたので」
別にどうしても来たい訳じゃなかった、とは流石に言わなかった。
口は災いの元とよく言うが、殊社交界に関しては尚の事余計な一言を揚げ足取りに使う人がいるのだから気を付けなければ。
前に会った時も、何だか逃げたのを根に持ってたし。
若干そう、身構えたのだが。
「粗相をしないよう、精々気を付ける事だな。ここにはこの国の重鎮や、もちろん陛下方も参加される。万が一の事があれば俺達も動く事になっている」
「……もしかして、わざわざ忠告をするために?」
口調こそ上から目線なものの「俺達がコテンパンにしてやる」と不敵に笑ったりせず、むしろ真剣な声色で言っている辺り、どうしても俺には彼の言葉がお節介に聞こえてしまった。
が、照れ隠しなのか、それとも本当に違うのか、彼は「はぁ?!」と声を上げる。
「なっ、そんなのではない! これも仕事だ! 無用なトラブルを増やされると我々の仕事が増えるからなっ!!」
「ふぅん?」
「何故疑う!」
「いやまぁ疑ってはないよ、多分」
くってかかる様子からも、やはりどうしてもぶっきらぼうな親切に見えてしまうのだが、まぁ良いだろう。
本人がこう言っている訳だし、正直言ってどっちでもいいというのもある。
それに、だ。
「怖くない、の?」
興味津々のクイナを見れば、彼女の恩恵・直感が危険を察知していないのは一目瞭然なので、まぁとりあえず今のところは脅威ではない筈である。
「怖くない怖くない」
見上げてくるクイナの頭を撫でつつそう言えば、先程よりもちょっとだけ俺の後ろから出てきて言った。
「優しい、の?」
「優しい優しい」
「優しくないわっ!」
何で否定するのか。
別にいいじゃん、良い人判定されたって。
語気強めで話に割り込んできた彼の頑なさに思わず笑ってしまっていると、完全に俺の後ろから出てきたクイナが期待の眼差しで聞いてくる。
「アルドのお友達なの?」
「友達……かどうかは難しいところだが、日々この国の平和を、今日はパーティー会場を守るカッコいい騎士だ」
「ふんぐぅ……」
どうした、カッコいい騎士よ。
そんな「言い返してやりたいのに間違ってないから言い返せない。むしろちょっと嬉しい。それが悔しい」みたいな感じで唸って。
しかしふぅん、なるほどね。
この男、「優しい」よりも「カッコいい」という褒め文句の方が、どうやら好みに合うらしい。
心のどこかにメモしておこう。
「誰さん、なの?」
「誰?」
「……貴様に名乗る名前はない」
何故か名乗りを誇示した彼に、俺は小さく息をつく。
「クイナが聞いたら教えてくれるかもしれない。なんせカッコいい騎士だからな」
仕方がないのでクイナに発破をかけてみれば、警戒心が完全に解けた彼女は案の定物怖じなんてしない。
まっすぐにフルメイルの彼の顔、フルフェイスヘルメットを見上げながら問う。
「カッコいい騎士さんは、誰さんなの?」
「……ジェンキンスだ」
「ジェンさんなの!」
ジェンキンスって、名前じゃなくて家名だろ。
心中で即座にそんなツッコミをしたものの、クイナは胸の前で両手を握り、せがむように「ジェンさんジェンさん」と言い募る。
「ジェンさんは強い騎士さんなの?」
「つ、強いが」
「じゃぁ、悪者をやっつけるの?」
「勿論、それが仕事だからな」
真っ直ぐなクイナの質問に最初こそ面食らっていた彼だったが、段々と興味津々なクイナの瞳に調子づいてきたらしい。
「じゃぁじゃぁ、街のみんなを守るお仕事なの!」
「まぁ有事にはそういう事もすることもあるな!」
純粋な子供のキラキラ目に、騎士・ジェンキンスはおだてられるままに胸を張った。
鎧がガシャリと音を立て、クイナも「おぉぉ!!」とテンションを上げる。
「それってすごいの! クイナ、冒険に行ってもまだ自分の事しか守れないのっ! 尊敬なのっ!!」
「ふふん。そうだろう、そうだろう!!」
「クイナ、今日はアルドの真似して大人しくしてる約束なの。だから魔法も使わないの。でも、ジェンさんが守ってくれるから大丈夫なの!」
「大船に乗ったつもりで任せとけ!!」
調子づいた鎧がいっちょ上がり、ついでに王城でコネまで作ったクイナに、今度は俺が小さく「おぉー……」と声を上げる番だった。
クイナさんよ、まだ会場にも入ってないのに、教えてもいない社交が出来てるぞ。
と、ここまで考えてハッとする。
違う。
今日は、コネを作りに来たわけじゃない。
穏便に事を終えたいんだから、むしろコネを作る様な真似はしないのが得策だ。
「クイナ、会場内に入ったらあんまり周りに話しかけに行かないように。そろそろ行こう」
今釘を刺しとかなければこの子、いつの間にか要らぬ縁を拾ってきそうな勢いだ。
是非とも自粛してほしい。
「ジェンさんも行くの?」
「俺はこの後第二王子殿下の後ろにつく。後ほど会場ですれ違う事はあるだろう」
「そう、なの……。じゃぁ頑張るの!」
ちょっとだけ寂しそうな顔をしたが、クイナはすぐに気を取り直して彼にエールを送り、俺の手をギュッと握ってくる。
「行くの!」
「あぁ」
こうして俺達は、ついに戦場へと足を向けたのだった。
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