第17話 冒険者たるもの ~レオ視点~
貴様に心配されるような俺ではない!
そう言ってやりたかったが、アルドは一言謝るとすぐに別の方向に体を向けた。
言うタイミングを逃し、少しだけモヤッとする。
そんな俺の気持ちなんて知らないアルドが足を向けた先には、倒れたオークを覗き込むチビが居た。
チビと同じようにオークを覗き込み「あー」と苦笑いになる。
「前の丸コゲよりは改善されたな?」
「うんなの! この前グイードさんとのジャム作りで厨房に入った時に、蒸気でジュワッとやればコゲないって分かったの!!」
「確かにそうだな。実際にこのオーク肉、綺麗に蒸し上がってる。だけどな、クイナ。目玉は蒸し焼きにしちゃぁ、生薬には出来ない」
「うん?」
アルドの声にコテンと首を傾げるチビ。
あー、確かそんな話をさっきしてたなぁ。
「別の方法を考えるか、目だけ蒸気から守る方法を考えた方が良さそうだな」
「目だけ、なの?」
「例えば目の辺だけ『
おいおい先のだと魔法を敵に全部で三重掛けしないといけないし、後のだと結界魔法全般の欠点として、壊されやすいんじゃないか?
流石にそれをあんなチビにやらせるのはハードル高いだろー。
「分かったの! やってみるの!」
やるのかよ。
……いやいや、まぁどうせ、どれだけ難しいことなのかも分からずに言ってるんだろう。
じゃないとあんなに軽く言えないだろうし。
と思っていた俺は、思わず白目を剥く事になる。
アルド監視の下、ドカドカと走って行ったオークにチビは両の手の親指と親指、人差し指と人差し指を合わせて丸く円を作る。
真剣な顔で円の向こうのオークを覗いている辺り、おそらくこれもイメージの補正なのだろう。
「首から上だけ、首から上だけ……『水よ集まれ。膜となって閉じ込めろ。
詠唱と同時に彼女から放出されたのは、やはり水の魔力。
今度は最初から意識して見ていたから見えた。
魔力が球体の水の膜を形成し、オークの体を――今回は頭を外に出した形で包み込む。
魔法発動は成功だ。
が。
「あっ」
煩わしそうにオークが身を大きく捩り、こん棒を持った手を振り回したところで膜がパチンと弾ける。
やはり一部分を外に出している分、強度が足りていないのだ。
自由になったオークが「ブォォォオ!」と吠えた。
魔法を発動したチビを第一の敵と見定め、一直線に突進しようとした、筈だ。
が、走り出したオークの首が、次の瞬間には斜めに滑って重力に従った。
ドォンと地面に頭がめり込み、続いて残された巨体がゆっくりとバランスを崩し転ぶ。
『目にも留まらぬ速さ』という言葉があるが、正直言って実際に目の当たりにしたのはこれが初めてだ。
倒れたオークの少し先でチビがホッと安堵の表情を浮かべているのだから、やったのは彼女じゃないだろう。
となれば、誰がやったのかなんてもう一人しか居ない。
慌ててそいつを探してみると、倒れたオークの少し後ろで剣を振って血糊を落としているアルドの姿があった。
何か魔力を身に纏っている。
『魔力可視』で目を凝らせば、無属性。
となればおそらく身体強化なのだろうが、何だアレは。
普通、身体強化といえば全身に薄く、伸ばすように魔力を身に纏うものなのに、足と剣を持った右手には少し分厚く施されている。
多少なりとも伸ばした魔力にムラが出るのはあり得るとしても、あんなに都合のいい場所にばかりムラというには多すぎる魔力の偏りが出来るだなんて、俺だってこの国でたった一人、銀鎧のあの人しか見た事なんて――。
と思った瞬間、アルドがタッと地を蹴った。
彼の前方、チビから見て右方向に、五体のオークの群れ。
どうやら俺やアルドが始末したオークの血の臭いにヤツラも気が付いたらしいな、と思ったところで、うち四体の体がズゥンとほぼ一斉に地響きを鳴らした。
見れば、頭が無い。
まさかの現在、オーク討伐数が俺2体、チビ3体、アルド五体。
一気にビリに躍り出た……って、そうじゃない!
「おーい、クイナー、行ったぞー!」
いやいや流石にさっきの今じゃ魔力枯れただろ、スパルタかよ。
「うんなのー!!」
え、ちょっと待て。
お前さっきも今も、連続ででかい魔法と難しい魔法を連続行使してただろうが。
お前の魔力、底抜けか?!
驚きの連続にそろそろ見開きっぱなしの目が乾いてきた頃合いで、後ろからズゥンという地響きを感じてハッとした。
振り返ると、やべぇ! すぐ近くに振り上げられた斧がある。
転がるように避けた俺のスレスレを、斧の切っ先が空ぶった。
そうだよ、そうだった。
俺だって
今は
幾らヤツの攻撃をくらっても一撃でやられる事はないとはいえど、油断は禁物。
いつ何がある変わらないここでは一撃も貰わないのが吉だし、オーク如きに一撃を貰うようではBランク冒険者の名が廃る。
転がった反動はそのままに、起き上がると共に剣をふるう。
敵に刺さった剣の切っ先、伝わる手ごたえと、オークの悲鳴。
しかし一撃では刃が通り切らない。
一度抜いて、今度は逆側から斬撃を加える。
オーク独特の血の臭いで、むせ返りそうだ。
しかし、血、砂埃、流れる汗にまみれつつ、泥臭く勝利を掴む事こそが冒険者の醍醐味。
あるべき形なのだから、むしろこれで正解だ。
そう思いながら、オークの屍を積んでいったのに。
「いやぁー、なの。臭いの……」
夕暮れ。
没頭するようにオークを倒し「これだけ倒せば俺の勝ちだろ」と意気揚々とあの二人に詰め寄ろうとしたところで、チビから言われた。
獣型の耳を伏せ、尻尾をダラリと下げながら迷惑そうな顔。
予想外の言い様に、まず手から力が抜けた。
持っていた剣が、地に落ちてザクッと刺さる。
それから数秒後。
俺は息を吸い、心に正直な気持ちを口にする。
「はぁぁぁぁぁぁあっ?!」
勝負相手にまず気にするのがそことか、ふざっけんな!
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