第14話 おめかし代を稼ぐために、冒険者家業!
おめかしに妥協を許さない女の子な部分が見えた日に、クイナと「明日からパーティーまでの一か月くらいでおめかし代を稼がないとな」という話をした。
クイナも自分のおめかし代を稼ぐ事には意欲的で「クイナ、頑張るのっ!」と、両手を胸の前で握り鼻息荒くムンッと決意。
という事で、今日からしばらくは冒険者家業を頑張っていく。
しかし別に、無理をする必要はない。
クイナも俺も冒険者ランクはCランクなので、受けられるのはB~Dランク相当と認定された仕事だが、いつものように今日も俺達はCランクの仕事を受けるつもりだった。
が、今日は珍しい人物と鉢合わせる。
「フンッ、またCの仕事かよ」
バカにするような声色だった。
声の方を振り返ると、そこに居たのは俺よりも2、3年上だろうかという感じの、若い男。
顔立ちの整った茶髪の人物で、身なりにも少し金を掛けている感じの……いや、よく見たら頑丈ないい素材を使っているな。
なるほど、どうやら見た目と実用性を兼ね備えた買い物が出来るタイプの男らしい。
俺はコイツを知っていた。
彼には一度、街中で俺に奇襲を掛けてきて、それ以降も度々こうして俺を見つけては突っかかりに来るヤツだ。
とはいえガッツリと冒険者家業をしている彼とは滅多に会わない。
窓口のラッシュが終わった頃に顔を出して残っている依頼の中から適切なものを引き受けて夕食時には帰って来るような俺達とは違い、彼はどうやらちゃんと良い依頼が張り出されている時間帯、つまりラッシュの時間帯に仕事を取っていき、日が暮れた後で帰って来るという、冒険者として非常に勤勉なライフサイクルを送っている人間らしい。
故に、直接話す機会なんて数える程しか今まで無い。しかし、たまにとはいえ流石に十か月もこうして地味に突っかかっては己の存在を主張して帰るため、俺だって顔と名前くらいはもう覚えている。
「……レオさんは今日もAランクですか?」
「勿論だ。俺はBランク冒険者だが、向上心は失っていない! 常に自分に挑戦している。子守りをしながら冒険者をやっているお前なんかとは違ってな」
経験上相手にしないといつまでの隣で騒がれるので適度に話を振ってみると、どうやら気を良くしたらしい。
胸を張って、己の欣嗣を語ってみせる。
自分の仕事にプライドを持つことは、決して悪い事じゃない。
実際にこの人、『冒険者や町人、老若男女を差別せずに助けてくれる良いヤツ
』『さっぱりとした気の良いヤツ』『協会の孤児院によく寄付してる』などなど。
周りからの評判は良いらしいので、完全に悪い奴という訳じゃないのだろう。
しかし面倒臭い事には変わりないので、どうしても「へぇー、流石はレオさん」という言葉は些か棒読みになってしまう。
俺達を見かける度にわざわざ寄って来る相手だから、正直に言えば少々面倒な人物ではある。
が、たびたび暴力に訴えたり、周りに手を回して妙な噂を流したり圧力を掛けたりという事は無い。
王太子時代の厄介者達と比べると、まるで子供かというくらいあしらうのが楽な人でもある。
確かに真面目に上を目指そうとしている様な人間からすると、俺みたいに必要な分だけ冒険者家業をして子供とまったり生きているような人間は『向上心の無い怠け者』に見えるのかもしれない。
そう思うと彼の言い分も分からなくはないので、それ程腹も立つことは無い。
これはあくまでも『俺と彼には価値観の相違があるみたい』という話だ。
ことある事に話しかけてくるのは少々大人げないような気もするが、そういう生き物なのだと思えば目くじらを立てる程でもない。
今日もおそらく、こちらの向上心の無さをちょっと指摘したらすぐに去ってくれるだろうと思って流していたのだが、どうやら今日は違ったらしい。
「と思ったが、仕方がないから今日はお前らに合わせてやる」
「え?」
「俺と勝負だ。俺がお前に勝っていると今日こそ証明してやる!」
「えぇー……」
面倒くさそう。
それが彼に抱いた感想だ。
最近妙に絡まれる事が多い気がするんだが、何でだろう。
「クイナこの人知ってるの」
服の裾をクイッとしてクイナがしてきた耳打ちに「ん?」と耳を傾ければ、彼女はこう教えてくれた。
「この前『天使のゆりかご』でおっちゃん達が言ってたの! 『レオはミランにお熱』なの!」
「あー……」
ミランさんとは、この冒険者ギルドの受付嬢であり、クイナにとても親切な人という事で仲良くさせてもらっている。
って事は何? もしかして嫉妬心的なやつなのか?
「貴様、王城からギルド宛てに個人問い合わせがあったらしいが、冒険者としてまだ日が浅くCランクに甘んじている様な人間が調子に乗ってもらっては困る。Bランクとの差を思い知ってもらわねば」
目を凝らせば、俺の恩恵『調停者』がほんのりと彼の感情を教えてくれる。
義務感、正義感、そして嫉妬。
なるほど。
嫉妬心はあるにしても、それだけじゃない。
彼の中にはどうやら喧嘩を吹っ掛けるための一定の道理があるらしい。
それが一体何なのかはよく分からないが、とりあえず。
「うーん、どうしよう」
Bランクの依頼を受ける気は無く、実際に受けた事も無い。
それはCランクの依頼で金銭的に事足りている事と、クイナの安全面を考慮してのことな訳だが……。
「アルドッ! クイナ、これがいいのっ!!」
そう言って彼女が指差したのは、「オーク討伐」。
ちょうどBランク相当の依頼である。
「クイナ、また『オークさんパーティー』やりたいのっ!!」
「うーん……」
やる気に満ちたクイナを前に、俺は思わず悩み唸る。
まぁ確かに、今のクイナなら大群相手じゃなければ大丈夫だろう。
どうせ俺も一緒に行くんだし、最悪助けに入ればいいし、万が一危なくなった時には、結界の魔道具内に非難すれば問題ない。
それは経験則で分かっているし、何よりやる気になっているクイナの自主性を刈り取る様な真似はしたくない。
グイードさんも言っていた。
子育てには、時に保護者側の『子供にチャレンジさせる勇気』も必要だって。
「じゃぁ、ちょっとやってみる?」
「やるの!」
「よしじゃぁどちらがより多くのオークを狩れるかという勝負だ、アルド!」
うちの教育に乗っかる形で、レオが勝負を吹っ掛けてきた。
こちらは別に張り合う気など無いのだが、クイナは俄然やる気である。
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