第13話 ドレス選び



「ふわぁぁぁぁあっ! キッラキラなのぉーっ!!」


 通された部屋には色とりどりの衣類が飾られていた。

 どれも流石は貴族向けという感じで、布や糸に気を使っており、縫製や刺繍も丁寧な仕事。

 装飾品もキラキラで、クイナにとっては今まで見て来たものとは全然違うように見えたのだろう。

 耳ピピーン、尻尾ブンブンブン状態のクイナが、頬を紅潮させて走りだ――ガシッ。


「クイナ、ここでは走っちゃいけません」

「はぁい、なの」


 慌てて首根っこを掴み、足プラーン状態で言葉を呑み込ませる。


 幾ら王太子時代に見慣れたレベルの品々とはいえ、もし何かあってこの部屋の物を自腹で払う事になったら、かなり財布に痛いだろう。

 これでも一応冒険者家業でクイナと二人で暮らすには十分な収入を得てはいるものの、無駄遣いするつもりはない。

 クイナだって、折角なら服に沢山金を使うより肉とかプリンに金を使いたいと思うしな。


 クイナが興奮から落ち着いてきたところで放してやると、改めてこちらを見上げてくる。


「今日は、お洋服買うの?」

「パーティー用のな。どんなのがいい?」

「赤なの!」

「色か」


 俺は、フリルが沢山とかリボンが付いてるとか、そういう好みを聞いたつもりだったんだが。


 っていうか、赤いドレスって。

 何となくドレスで赤っていうと『大人』とか『キツイ』イメージがあるんだけど、クイナにはあんまりそぐわない……っていうか、似合わなそうだと思う。

 でも本人は、がぜん赤いドレス推し。

 うーん……。


「俺の中ではもうちょっと柔らかめの色のイメージだけど」

「なるほど。ならば淡い色のドレスに赤で装飾を施すという手もありますよ?」

「刺繍とか?」

「他にも生花やリボンやフリルなど、やり方は幾らでもあります。ワンポイントの方が、真っ赤よりもより一層赤が引き立つと思いますよ?」


 おそらく彼も、クイナにはオレンジの方が似合うと思ったのだろう。

 後半はクイナへ向けてのプレゼンだ。

 そしてすかさず俺を向く。


「それに、小物を赤を合わせるのなら、ある程度デザインにも融通が利きますしね。全オーダーメイドにするとどうしても値が張りますから」


 流石はダンノ。

 たった一度着るだけの晴れ着だ、そう思うとやはりオーダーメイドまでは必要ないのではないかと思っていた俺の心を先回りして、そんな提案をしてくれる。

 本当に出来る商人だ。


「デザイン、なの?」

「えぇ。例えば、プリンの刺繍を入れたりとか」


 いやまぁクイナは確かにプリン好きだし彼女の意識を向けたくてした提案なんだろうとは思うが、プリン刺繍のドレスってかなり斬新だな。

 いやまぁ時には斬新なデザインがその年の社交界の流行を掻っ攫うという事も無い事は無いけど、プリンだぞ?

 あんまりうまく想像できない。


「プリンよりもトマトが良いの!」

「トマト?」

「プリンは黄色なの! 赤ならトマトなのっ!!」


 あぁなるほど。

 確かに家で野菜を作って食べるようになってから、トマト好きになったもんなお前。

 そんな風にいっそ感心する一方で、「それにしてもトマトかよ」という気持ちも同時に芽生える。


 結局食い物から離れてないじゃん。

 一体どれだけ食うの好き……あ、いや、食うの好きだよなぁクイナ。


 妙に納得させられてしまい、最終的には「まぁクイナがご機嫌で臨めるんなら良いか」と思い直す。


 こういうのはどうせ自己満足だ。

 何かを代表する訳でもないのだから、クイナがどんな服を着ようが誰かの面子を潰す事は無い。

 周りの目よりもクイナ本人の気持ちの方が大事だし、ダンノならきっと恥にならないようなものを売ってくれる。


「では、ドレスはどれにしましょうかねぇ」

「いっぱいあるの!」

「えぇ。クイナさんに似合うものもいっぱいありますからね、幾つか試しに着てみましょうか。ファッションショーです」

「ファッションショーっ!!」


 ダンノの言葉にクイナの薄紫の瞳がキラリと煌めく。


 女性の買い物には時間がかかるとよく言うが、もしかしたら『年齢に問わず』なのかもしれない。

 彼女の様子からそう察し、俺は今日一日、クイナのおめかしに付き合う覚悟を密かに心に決めたのだった。


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