第11話 一方その頃、母国では(12) ~国内の異変~



 ルドヴィカ王国、城内にて。

 いつもの如く書類仕事の休憩がてら重い資料を執務室へと運んでいる途中で、シンはとある人物に呼び止められた。


「また沢山持ってるなぁ、シン」

「レングラムさん」


 シンの視線の先に居たのは、彼の想像通りの立派な白い顎鬚を蓄えた、いかつい顔の男である。

 ただ一つ想像と異なっていたのは、彼が武装していた事だ。

 

「あれ? もしかしてレングラムさん、これからすぐ出るんですか?」

「あぁ。最近、お前が城を空けて以降は特に、出動要請の頻度が上がっている。しかも全てが大型魔獣だ」

「大型魔獣の活性化……」


 確か以前読んだ文書に、似たような事案があった筈だ。

 大型魔獣が活性化する理由は確か。


「……はぁ。まさかの食糧不足がこんな所にまで。いや、こんな事になるくらい、今この国は危機に瀕していると言った方がいいのか」


 魔獣が生まれるのは、獣が自分の容量以上の魔力を体にため込んでしまった結果だ。

 そして獣が魔力を体にため込む原因になるのが、食糧不足。

 食べ物が不足した獣は、代わりに空気中に漂う微量の魔力を集め食らう事で飢えを凌ごうとする。

 そうして食らった外的魔力が自分の容量を超えると、体が変質し獣は魔獣へと変わり、狂暴化して猛威を振るう。

 


 大型魔獣は、獣の中でも特に魔力内包量が多い獣が変質した結果だ。

 それが頻繁に発生するという事は、獣たちがそれほどまでに長い間魔力を食らい続けなければならない状況に置かれていたという事である。

 野生の獣も人里に降りて農作物を食べたりする。

 そのような食糧元が、村人たち農業廃業のせいで潰れた結果が今なのだとしたら、全ての説明が付く。


「まぁこうなるとは思ってたけどな」


 むしろ想定しうるトラブルの中でも最初に浮き彫りになる問題だろうと、アルドも向こうで言っていた。


 国庫が干上がっている今、他国からの輸入品を買い占めるだけの金もないこの現状で、アルドに聞いて持ち帰ってきた策も残念ながら機能していない。

 そうなると、新たな策を講じる地力が無い今の王国が求めるものは、まるで魔法か何かのように一挙に食糧難を解決する方法だろう。

 しかしそのような強力な魔法を使える稀代の魔法使いが現代に居るという話は、全く耳にしていない。


 と、なるとやはり。


 ――危険だよなぁ、アイツら。


 シンの脳裏に浮かんだのは、キツネ耳のあの元気っ子だ。


「まだ準備は出来ていないし、目立つような真似はしないでほしいものだけどな」


 呟くように口を開けば、レングラムが「何の事だ?」と聞いてくる。


「アルド達の事ですよ」

「あぁ、アルドはいつも片っ端からトラブルに首を突っ込みたがるからなぁ」

「いやまぁどっちかというと、トラブルに愛されちゃってるんじゃ?」

「どちらも同じだろう? 結局いつもアルドの周辺でトラブルが起きて、毎度鎮火役を買って出る羽目になる」

「それはまぁ」


 否定できない。

 それだけの実績と功績をアルドは過去に積み上げている。


「まぁ、滅多な事がない限りは大丈夫だろう? それこそ他国にまで轟くような評判にでもならない限り、自分たちの事で精いっぱいになっているこの国にその存在が知られる事はないだろからな」

「そうですね。でもレングラムさん、言霊って知ってます?」

「あ」


 言った事が現実になる、なんてのは、何の根拠もない迷信だ。

 しかし意外とバカに出来ないような気がするのは何故だろう。


 願わくば実際にそんな事が起きてしまわないようにと願うシンは、アルドとクイナがつい前日にノーラリアのパーティーに潔く招待されようと決意した事をまだ知らない。


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