第7話 アルドとクイナの街への功績



「相当って、流石にそんな事はないでしょ」

「はぁ……無自覚って怖いですね」


 冗談だと思って苦笑交じりに言葉を返したら、何だかものすごく呆れられてしまった。

 彼女はギルドの受付嬢という事以上に、日々クイナを心配し、可愛がってくれている。

 見た目こそ人族なのだがどうやら獣人とのハーフらしく、獣人の常識や好み、フワフワ毛並みにできるシャンプーなど、色んな事を親切に教えてくれる女性だ。


「この辺のゴロツキ集団の壊滅を言ってるんなら、アレはあくまでもクイナが誘拐された時の副産物で――」

「それだけじゃないじゃないですか。調停者の『恩恵』を使って街中で数々の仲裁や相談を上手く取り成したり、ほら、この前は串焼き屋の店主のジャスバーさんと彼女の恋のキューピットになったりも!」

「アレは気付いたらクイナが勝手に首を突っ込んでて……」


 丁度店前で近所の人に会ってほんのちょっと話していただけなのに、気が付いたらクイナが女の事と店主のおじさんの間でやいのやいのやっていたのだ。

 どうやら喧嘩中だったらしくクイナが気まずげな二人に首を突っ込んだらしいのだが、迷惑を掛けてしまった手前知らんふりも出来なかったのだ。


 そうして話を聞いている内にどうやら二人が単にすれ違っているだけだと気付き、少しとりなしてみたら誤解が溶けて大団円……という、まるで絵に描いたようなドラマチックラブストーリーが目の前で展開された。

 結局二人は最後には、街のど真ん中で抱きしめ合って、周りの人たちが拍手喝采で祝福する結果になった。

 

 でもそんなのはたまたまだし、第一国には何の貢献もしていない。

 アレが原因で王城に呼ばれるような事は絶対に無い。


「クイナちゃん印のお野菜も、売り切れ必至みたいだし」

「アレは、ダンリルディー商会が力を入れてロゴシールとかも作ってくれるから、なんか気付いたらブランド化してただけだしなぁ」


 そちらについては懇意にしている商会長に、クイナが『恩恵』訓練の失敗した時に、食べきれない品を安価で卸させてもらっているのだ。

 数は少ないが美味しいという事で、『不定期入荷のキツネ印』と銘打ってたまに店頭に出している。


 どうやらリピーターもしっかりついているとは聞いていたが、まさか売り切れ必至だとは。

 正直言って、そこまでだとは思っていなかった。

 現在進行形で驚いている。


 と、ミランが眉尻を下げて周りをキョロキョロと見回した後声を潜めて聞いてきた。


「それって大丈夫なんですか? その、恩恵の力、隠してるのに……」


 珍しいが故にクイナの『恩恵』は可能な限り隠しているのだが、冒険者登録をする上で彼女はそれらを知っている。

 だからこそ、「そこからバレてクイナが危険に晒されるのでは」と心配する気持ちもよく分かる。


 が、その点は問題ない。


「あぁ、それ程多くの量にならないようにしていますから、その辺は」


 商会長・ダンノは、流石大商会を背負う人だ。

 キッパリ何かを言わずとも、何となく「あぁコレはあまり大事にしない方が良さそうだ」と察して動いてくれる。

 あのロゴも、俺とクイナはあくまでも『キツネ印』と呼んでいるが、他の人達はみんな『ワンコ印』と呼んでいる。

 そういう絶妙なイラストがロゴに使われているのだ。



 安堵したミランに、俺は「でもそれも、街では多少有名になっても国に貢献している訳じゃない。ダンリルディー商会には貢献できてるかもしれないけど」と言葉を重ねる。

 すると彼女は「あのですね」と改まってこう言った。


「実はお二人が街中で追いかけっこした日の朝、どうやら国から問い合わせがあったらしいんですよ。お二人について」


 私はその日非番だったので、あとで知った話なんですけど。

 小声でそう言った彼女は「もう分かるでしょ?」と言いたげだ。

 が、俺にはイマイチ何を言いたいのか分からない。


 思わず小首を傾げると、心底呆れ顔になった。


「アルドさんとクイナちゃんは、冒険者ランクこそクイナちゃんの為にCに留めていますけど、依頼達成率は驚異の100%。たまに森でBランク相当の魔物と遭遇して倒して帰って来る事もあるんですから、それらをすべて照会されたら嫌でも目立つし、驚異の排除という意味で遠回しに街そのものに貢献している事にもなります!」

「あ……」


 そうだった。

 そんな事もあったなぁ、と、今更ながら思ってハハハッと乾いた笑い声をあげたのだった。



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