第6話 招待状


 

 フルメイルは重いのだ。

 体はそれに耐えられても、その下を支えるものが耐えられなければ足場は崩れ落下する。

 

「落とし穴なのー」

「どっちかいうと、自分で穴を作って落ちた感じだけどな」


 突然の事、しかも俺と話していて少し注意力が散漫にもなっていた。

 お陰で魔法の発動が遅れて、精々が衝撃を吸収するに留まるだろう。


「ここ、冒険者ギルドの倉庫なの?」

「あぁ、この前ミランさんが『三号倉庫の雨漏りがずっと前から酷いんだけど、お金がかかるからって言って中々上が直してくれない』って言ってたからなぁ」


 もしかしたら屋根が寿命だったのかもしれない。

 半分願望、半分確信でシレッとそういうルートを取ったのだが、どうやら運はこちらに味方したらしい。


「アルドの恩恵は偉い子なの!」

「俺の? あ、『幸運』か」

「うんなの!」

「あー、まぁそうなのかなぁ」


 チラリと後ろを確認するが、ぽっかりと開いた屋根の穴から誰かが這い上がって来る気配はない。


「まぁこれで、第三倉庫の修繕費は国から支給されるんじゃないか?」


 他人事のようにそう言いながら、屋根をピョンピョンと乗り移る。


 幸いだったのは、自らを『発射ランチャー』で飛ばしてまで追跡をする執念を見せたのが、先程の彼一人だけだったという事である。

 結局彼らに見事に見失ってもらい、俺とクイナは無事家へと帰れた――のだが。




「あのぉ、すみません」


 夜。

 家の前に一人の少年が立っていた。

 執事服に身を包んだその少年は、ノックに応じて扉を開けた俺におずおずと、一通の手紙を差し出してくる。


「ご主人様から『直接本人に渡すように』と言われていまして。アルドさん、で合っていますか……?」


 手紙を受け取り裏返すと、シーリングスタンプには見た事のある紋章が使われていた。

 双頭の竜。

 ノーラリア共和国の紋章であり、王族だけに使う事が許されているものの筈だ。



 あー、まぁそうだよな。

 そりゃぁ『冒険者・アルド』の住んでるところは隠してないんだから、ちょっと周りに聞いて回れば場所なんてすぐに割れるだろう。


 覚悟してたさ、追手が来るのは。

 追手と呼ぶには少し大人し過ぎるのが来たからちょっと驚きはしたけど、まぁ想定の範囲内だ。


 もちろん逃げた後、身を隠す事も考えない訳ではなかった。

 だけどもしそれをしてしまったら、結局のところ『この土地でクイナと二人、やりたい事をやりながら自由に生きる』というそもそもの願いに反してしまう。


 クイナにも聞いたが即答で「みんな仲良しなの! クイナの居場所はココなの!」と言ったから、身を隠す選択肢は早々に外した。

 その代わり、俺達の願いそのものも、もちろん諦めるつもりはない。

 ただ真っ向から戦ってやると決めただけだ。



 果たして一体何が書かれているのだろうか。

 例の執事は、ただただ恐縮しながらも仕事は終えたと言わんばかりに、最後の一言「ぜひお越しくださいと殿下が申しておりました」と言伝て帰って行った。

 

 テーブルにつき、手紙の封をゆっくりと切る。

 中には一枚の紙があり、二つ折りのソレを開くと共和国の紋章が薄く印字された便せんの最初にこう書かれていた。


<冒険者・アルド殿、クイナ殿。近頃の貴殿らの国への貢献を鑑みて、国より感謝の意を込めて勲章の授与を行う。ついては共和国生誕祭への出席を命ず>


 共和国生誕祭。

 それは、その名の通り共和国の建国を祝う祭典だ。

 どこの国にもある年に一度の祭りであり、大抵は国を挙げて祝う事になるが、そう言われればこの国の生誕祭はあと2か月後くらいだったかもしれない。

 

 これを読んだ時の最初の感想は、「俺の正体がバレたっていう訳じゃないのか?」というものだ。

 もしバレているのなら、思惑が例えどうであれこんな回りくどい事などせずに、普通に王城へと呼びつければいい。


 もう俺は、王族ではない。

 言われればいかなければならない。さもなくば、国を敵に回す覚悟をしなければならない。

 俺達は確かに自分の願いを捨てるつもりはないけれど、だからこそ、この国で王族に盾突くのは最終手段になる。

 もし「今すぐに来い」と言われたら、少なくとも今回は従っただろう。


 が、「現状でバレていないから良かったね、解決」という話にはなってくれない。


 生誕祭には他国の要人たちも招待されるのが常だ。

 そんな場所で勲章の授与だなんて。

 少なくともただの一般冒険者がそうおいそれと貰えるものじゃない。

 どう考えても悪目立ちする。


 そもそも別に国難を救った訳でもないのに、どうして勲章なんて話になるのか。

 

 もう色々と頭が痛くて、思わず深いため息が出た――のだが。


「何言ってるんです? アルドさん達は相応の事をしたでしょう?」


 翌日、冒険者ギルドで受付嬢のミランにそう言われてしまった。


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