第5話 やっぱりバレてる?


 正直言って、最初は「何だアレ」と思った。

 

 クイナが「銀の人がお馬さんに乗ってるの!」とはしゃぐ。

 目を凝らすと、フルメイルを日の光にギラギラと反射させながらやって来る騎馬の一団が見えた。

 

 我が物顔で中心街のど真ん中を行進する一団を、誰もがみな物珍しそうな顔で見ている。

 それは俺達も同じで、クイナが「誰さん、なの?」と首を傾げつつ見上げてくるが、答えなんて分からない。



 あの団体行動が骨の髄まで染みついているかのような整列に、姿勢の良い騎乗、手綱捌き。

 丁度王城勤務の騎士達が人前ではあんな雰囲気だったと思う。

 訓練された騎士……のように俺には見えるが、如何せんフルメイル。

 防御よりも速やかなる攻撃を優先する騎士にとって、フルメイルは大抵の場合足かせになる、と前に剣の師・レングラムが言っていた。


 それを思い出して「何で騎士があんな……」と怪訝な顔をした時だった。

 先頭を走る男の後ろで、別のフルメイルが指をさしたのは。


 何かを言ったようだった。

 内容は全く聞こえなかったが、指の先がこちらに向いていた事で、何となくだけど嫌な予感がした。

 そして予感は的中した。


「待ぁてぇーい、アルドォォォォォ!!」

「えっ」


 確かに呼んだ、俺の名を。

 それだけじゃない。

 横腹を蹴り、合図と共に馬が走り出した。


「ちょっと、は? 何でっ?!」


 追いかけられる理由は全く思いつかない。

 しかしだからこそ、反射的に危険を察知して俺も走り出したのだ。

 脇にクイナを抱えながら。



 その後記憶をまさぐって、どうにかヤツラの正体に当たりは付けられた。

 フルメイルが目印の、ここノーラリア共和国の第二王子付きの騎士。


 通称・『重強おもつよガッシャンコ軍団』――とは数年前の第二王子本人の言だけど、どうやら彼等にとってこの名は不名誉極まりないものらしい。

 だというのに。


「ガッシャンコが追いかけてくるのーっ!!!」

「わーっ、お前火に余計な油を――」

「きっっっさまぁぁぁぁぁぁ!!!」


 執念深くも馬を乗り捨ててまで追いかけてきた先頭騎士に、クイナが余計な事を言ったせいで、最早躍起になって追いかけてくるフルメイル。

 出来ればさらに身体強化を掛けたいが、重ね掛けにも限度がある。


 俺の場合、4回かけると短期間しか続かない挙句、次の日にはものすごい筋肉痛に苛まれる事になる。

 現在もう3回目を重ねた後なので、逃走劇を繰り広げるには現状のまま逃げ切るしかない。


「っていうか、何の用だっ?」


 このままでは、今日逃げきれても結局また次に顔を合わせた途端に追いかけられる羽目になる。

 ならばこの際、ちょっと歩み寄るふりをして探りを入れてみる作戦だ。

 

「そんなの貴様が一番よく分かっているだろう!」

「分からないから聞いてるんだけど」

「あんな事をしでかしておいて、目立たずにいられると思うなよ?!」


 聞いてみたが、分からない。

 

 っていうか一向に理由を言わないこの感じ、もしかして俺の素性を知っての事なのだろうか。

 だとしたら一応周りに配慮してくれているのかもしれないが、もし俺が元隣国の王太子だからという理由でこうして追いかけているのだとしたら、それこそ捕まっていい事なんてある筈がない。



 もしかしたら俺の意に沿うように何か手を差し伸べてくれようとしている可能性も、勿論ゼロではないだろう。

 特にクイナは『輝狐きこ』という少し珍しい種族な上に、持っている『恩恵』も特殊な子だ。

 国が守ってくれると言うならそれはそれで助かる面も無いわけではない。


 でも、俺もクイナも今の生活を気に入っている。

 隣国で、王太子をしていた時には出来なかった事が出来て、色んな人に助けてもらってその代わりにちょっと何かをお手伝いしたりする、この生活が。


 善意でやろうとしている事が、相手にとって必ずしもそうではないように、もし彼らが善意から俺を保護しようとしているのだとしても、有難迷惑になる事がある。

 こんな街中で騎乗の上走り回るという街人達の迷惑を全く考えない所業をする相手だ。

 その辺の信用がいまいち出来ない。


 もし悪意や害意が理由なら、そんなの全く話にならない。

 そんなものに付き合う義理は無い。

 

 

 少なくとも彼からはこれ以上有益な話は聞けそうにない。

 その上で、「現状では逃げる一択しかなさそうだな」と結論付ける。


 しかしどうしよう、このフルメイル。


「うーん……あ」


 屋根を走る足は依然としてダダダッと忙しい。

 それでも少し考えて、一つある事を思い出した。


 そういえば、確かこの先の筈だ。

 えーっと……あ、三軒先だ。


「なぁアンタ、そのフルメイル、重くないのか?」

「フンッこのくらい、日々鍛錬を重ねる我らにはどうってことはない!」


 一軒目。


「やっぱりその辺、ただの冒険者業をしてる俺とは違うよなぁ」

「勿論だ! 我らは共和国の騎士として、常に誇りを持って訓練に励んでいる!」


 二軒目。


「流石は誉れ高き共和国騎士」

「フッ、まぁな――」


 三軒目の屋根を彼が踏んだ瞬間、足場がメキッと音を立てた。


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