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 「『お泊まりドライブデート in 伊豆』で、女子高生のこころを盗む」


 いや、盗めない。


 「おまえ、お泊まりデート、受けたじゃないか」

 朧月がチョコチップクッキーをつまみ上げる手をとめた。


 ユリちゃんがいきたいならデートにはいく。オレはユリちゃんのものだからな。


 「ユリちゃんがかわいそだ」


 そうゆうんじゃ、ない。


 じぶんの心にまで手をだしたオレでも、ぜったい、奪ってはいけないものがあるのを知っていた。


 ユリちゃんはまだ若い。

 いまはオレに気持ちが向いていても、大人になれば、地に足のついた男を見つけるだろう?


 ユリちゃんのハートは、いまオレが盗んでいいものじゃない。


 「そんなこと…おまえがゆうんだ?」


 *


 ひとから奪うことに、躊躇いはなかった。


 世界はオレから家も家族も奪っていった。

 だからオレも世界から奪って生きてきた。それだけだ。


 ガキの頃は食い物を、ただ生きるために盗んでいた。


 中学になるころにはひとから請け負って、生活するために盗むことを覚えた。


 だけど、

 『一番ほしいもの』


 それだけはどうしても手に入らずにいた。どれだけ手をのばしても、


 「手に入らないんじゃない。手に入れようとしてこなかったんだ。逗子一の大泥棒に、」


 朧月はいつもそう、寂しそうに笑っていた。


 「盗めないものなんか、ないだろ?」


 *


 「はっ、まぁあれだ、」

 痛そうな表情のまま、朧月が鼻を鳴らす。

 「そんなカッコつけたっておまえは敵わないよ、ユリちゃんに」

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