第28話・私らしく生きる

 ──その頃、お城の大広間では「豊穣祭」の祝宴が開かれていた。


 私は勤務時間を過ぎていた為、自分の部屋でゆっくりとくつろいでいた。


 時計を見る。


 19時。


「もう少しかしら?」


 セーラ様があと少しで想いを叶えれるか? と思うと自分のことのようにワクワクしていた。

 私達がとった行動は決して褒められる行動ではないことは、分かっている。


 でも、セーラ様が言ったように人生で一度ぐらい、間違った選択をしても良いわよね?

 未来の王妃殿下と言っても、一人の人間。一人の女性。

 神様じゃないんだもの。


 私らしく生きるか……。


 セーラ様の一途な想いと真っ直ぐな瞳を思い出し、私は今までの自分の行動を思い出していた。


 田舎者だと勝手に悲劇のヒロインのように卑下して、この黒髪、黒い瞳を、重くて暗いイメージを人に与えていると、コンプレックスに感じ、いつも周りの目を気にしていた。


 良い人に見られる為? 優しい人って言われる為? いつも自分に自信がなくビクビクして、理由もなく謝っていた。


 侍女長様に言われた言葉「身に覚えがないことで謝るのは失礼なこと」

 その通りだわ。「悪いことをした」と思ってないのに謝っても反省でも何でもないわよね? そんなの。



「本当に馬鹿だわ。私って。何やってたのかしら」



 ──私も、自分らしく生きてみよう。


「今日は色々緊張し過ぎて疲れたから早めに休みましょう」

 私は早めに就寝することにした。


 それでもセーラ様のことが心配で中々眠れず、結局朝方まで起きては時計を見て、また布団に潜り込むを繰り返した。







「カレン。カレンはいる? 居たらここを開けて!」


 え? 侍女長様?  

 って今何時? もう朝??


 眠い目を擦りながら時計を見る。

 6時??? 


 ええ?

 何事? 今日は私はお休みのはずだったわよね?



 まさかもうバレた??


 普段と違う侍女長様の声に私は不安を感じつつも部屋のドアを開けた。


「侍女長様?」


「カレン、入るわよ?」

 侍女長様が私にそう言って部屋に入る。


「カレン。私は貴女のことを誇りに思っています。最初はとんでもない子が来たと思っていたけれど、一生懸命に仕事を覚えようと、侍女として主人に全力で仕えようとする貴女の姿を」


 ?

「はい……?」


「貴女何をしたの? 正直に言ってご覧なさい?」


 ──バレた!


 侍女長様に言う訳にはいかない。私が侍女長様に話すと侍女長様にも迷惑が掛かってしまう。


 セーラ様に最初にこの計画を進める上で、どんなことがあっても必ず守るように言われていたこと。


「私は何も知らない。一切知らない」と言えと。


 てもそれって……。

 私らしく生きる? 嘘を吐くことが私らしいの?



「カレン。私にも言えないことなの?」


 侍女長様が私の顔をじっと見つめる。その顔はとても真剣な表情だ。

 何も出来ない、何も分からない私に根気よく、熱心に教えてくれた女性はは

 初めて私に本気で怒ってくれた人。


 そんな人を騙すことが、私が望む生き方? これが私らしく生きること?



 違うわ。逃げ回るのが私のしたかったことじゃないわ!


 私がしたことは間違ったことかもしれない。

 でもあの時私は「この間違い」は間違っていない! と思ったからセーラ様に協力したんだわ。


 セーラ様は私に「もし、最悪バレてしまった時は、自分に命令されて断れなかった。断れば村のみんなはどうなっても知らないと脅された」とまで言いなさいと言われた。


 でも、そんなのは私らしく生きることじゃない!



「カレン。話して頂戴。私は貴女を本当の娘のように思っているのよ? だから……」


 ! 


 侍女長様!


 私は覚悟を決めた。そして全てを侍女長様に話すことにした。






 ──全てを話し終えた私に、侍女長様が頭を抱え項垂れながら一言だけ私に言った。


「カレン。良くやったわ!」



「申し訳御座いませんでした! って? は?」

 え?


 想定外の言葉が返って来たので、私は思わず言ってしまった。


「カレン。行くわよ! 急ぐわよ! 付いて来なさい」


「え? 何処に? ええええええええ?」





 ◇



 その頃、大食堂では朝の朝食を食べに来た城で働く者達や、料理を並べるキッチン担当の者達が忙しく動き、人の群れでごった返していた。人集をかき分けるように血相を変えて大きなお腹をユサユサさせ、大股でドスドスと歩く一人の紳士が居た。



「娘は何処だ? 娘を何処に隠した! セーラを何処に隠した!!」


「ボ、ボティチェルド侯爵様? 如何なされましたか?」


「えええい! 娘を何処にやった!!」


「え?」



 その男性はドスドスと歩き回った後、人混みをかき分け奥の廊下をズンズンと歩き進む。


「ええい! 邪魔だ! そこを空けろ!!」



 その異様な光景に立ち止まり、ヒソヒソと小声で何やら話す者や、驚いて急ぎ壁近くに退く者など、皆、何が起こったのか分からず混乱していた。




 彼が向かった場所は──






 ◇




「何だって? セーラが逃げただと? それは誠か?」

「はい。先程屋敷からこのような物が発見されました」


「どういうことだ!」

 セーラから、父親であるボティチェルド侯爵に宛てた絶縁状とも言える「婚約破棄申請書」見て、アルタニア国の国王であるフェリペは怒りに震えていた。そこには、セーラのサインが書き込まれてあった。

 

 アルタニア王国では法律的には、成人していれば親の許可なく婚姻、離婚出来る。婚姻破棄も然り双方が合意したら出来るが、王族は国王の承認が必要だった。



「不味いぞ。不味い!! これは不味いぞ! こんなことがあの堅物のバーガンディにバレてみろ! 儂は絶対認めんぞ!」

「分かっております落ち着いて下さい陛下。私に考えがあります。決して陛下にご迷惑が掛かることはありません。ご安心下さい」


 二人は顔を近付け合い、小声でボソボソと話す。


「なるほどな? 分かった。その娘は本当に大丈夫なんだろうな?」

「はい。聞くところによると何処かの田舎娘らしく、何の後盾もない平民だと」


「平民がセーラに付いていたのか?」

「はい。でもその方が反って都合が良かったかも知れませんよ?」


「フハハハハハッ。一層の事あの生意気なマリアも葬るか? そうすれば、若い娘も好き放題出来るしな?」

「それは良いお考えですな? ハハハッ。では、今の手筈で宜しくお願いしますよ? 陛下」


「相分かった。誰にも見られてないな?」

「勿論で御座います。では失礼します」




「フン。ただの女好きのお飾りのくせに。少々計画が狂ったが仕方ない。こうなったら殿下にも責任を取って頂き、退いて貰うのも一興か?」


 一人ボソボソと呟きながら、誰も居ない廊下を足早に歩く男性の姿があった。


















  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

田舎者なめんなよ! 追放? ふん!~田舎娘は王子様に出会い恋をする。そして本物のお姫様になりました~ 蒼良美月 @meyou15

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ