第26話・愛の逃避行大作戦(2)

 私達は、当日の移動ルートを確認したり、セーラ様の変装用のカツラやメガネを用意したり、街の門を出る為の許可証を手配したりと忙しく過ごした。



 ──そして今日。

 ついに決戦の日がやって来た。



 私は今、セーラ様に変装用のメークを施している。


「カレン上手になったわねぇ? 実はこの計画で一番不安だったのがだったのよ!」

 そう言ってセーラ様が笑う。


「酷い! セーラ様ってば!!」


「短い間だったけれど、貴女に会えて良かったわ。貴女のお陰で何もかも捨てる覚悟が出来たのよ私は」


 そんな私のお陰だなんて。

 でも本当にこんな大それたことをして大丈夫なのかしら?


 セーラ様がもし捕まってしまったら?


「セーラ様……本当に……今なら未だ間に合い……」


「カレン! もう決めたことよ!」


 侍女ならここで主人のことを、こんな無茶苦茶な計画を止めるのが筋だろう。

 でも……。

 本当にこれで良かったの?


 私はセーラ様に、告白されたあの日からずっと悩んでいた。

 セーラ様と、エドガー様が愛し合っていることは確かだ。そのお二人の気持ちを応援したいと確かに思った。

 

 でもエドガー様は、その先を考えセーラ様を国に帰らしたのだ。

 それなのに、その気持ちを無視して……。



 今でもお二人に幸せになって欲しい気持ちは嘘ではない。

 

 でも、私がセーラ様を応援し、協力しようと思ったのは…………。



 セーラ様が…………。



 何てことを!!





 違う! 私はセーラ様に幸せになって欲しい。

 だからこの計画を手伝うことにしたんだわ!



 だからセーラ様が居なくなることを……なんて。


 いえ。そんなはずはない!!




 だってこんなに可愛らしいんですもの。

 無邪気に笑うお姿が。


 だから私は、セーラ様のお役に立ちたい!




「本当に私、心配していたのよ? 貴女にクマのようなメークされたらどうしましょうって? アハハッ」



「……今度笑ったら、本当にクマにしますよ?」


「ハハハッ。本当に貴女に会えて良かったわ。カレン。今まで有難う」


「セーラ様、そのお言葉は無事計画が完了した時に……」


「ええ、絶対に成功させましょう!」


 私達は急いで用意し、城を出る準備をした。


 荷物は最低限。街にお使いで買い物に出るのに大きな荷物を持って行くわけには行かなかった為、最低限にし、予め国外脱出の為に用意した船に荷物は積み込む手配をしていた。


「セーラ様。これを」


 私は、少ないが今までセーラ様に仕えた時に頂いた特別手当をセーラ様に差し出した。

「カレン? これは?」

「少ないですけれど、何かの時の為に使って下さい」


「カレン!!」

 セーラ様が私に抱きつく。


「私達は親友ですもの。ね? そうでしょ? セーラ様?」


「ありがとう! ありがとうカレン! このお金は絶対に何時か必ず返すから!」


「ええ。セーラ様!! 絶対に何時かエドガー様とお二人で返しに来てくださいね!!」


「ええ、絶対よ。約束するわ!!」



「さぁ行きましょう! 時間が来るわセーラ様!」


 私達はエリック殿下の「祈りの言葉」を読み上げる時間に間に合うようにと、できるだけ廊下を優雅に急ぎ歩いた。


 下女の制服を来て、メガネを掛け、カツラを被り変装したセーラ様を私は連れて、城の門番に許可証を見せる。


 落ち着いて、相手の目をしっかり見て優雅に。


「おや? こんな日にお使いかい? 大変だねぇ次期王太子妃の侍女ともなると、何でもたいそう我儘な方だと聞いたが?」


「門番様、そのようなことを……でもお気遣い頂き有難う御座います。急ぎますので。では」

 そう言って私は門番の男性に、にっこり微笑んだ。



「カレンって意外と小悪魔ね……」


「え?」


「いえ。何でもないわ。第一関門突破ね。急ぐわよ!」


 ここからは私の出番だ。


 公園の入口で制服を脱いだセーラ様から制服を預かる。


 そして私が騎士様や、エリック殿下の目を引き寄せる間に、セーラ様が公園から抜け乗合馬車の乗り場に向かう。

 その後を私が追い掛け、港に向かい、セーラ様を船に乗せるのが私の役目だ。


「気を付けて」

「ええ。後で」


 私達は暫しの別れの挨拶をし、私は公園をゆっくり見渡す。


 すると案の定。


「あれ? カレンちゃん? 今日も仕事なの?」

「カレンちゃんの姿が見えないなと思ってたら、今日も仕事だったの??」


 騎士様達に囲まれた。


 きっと壇上にいる殿下も気付いたはずだわ。

 その隙にきっとセーラ様は公園を抜けているはず。


「ええ。ちょっとお使いを頼まれたんで」

「相変わらずだなぁ。カレンちゃんも大変だねぇ……」


「仕事ですから。あっ! いけない急がないと! ごめんなさいね。ではまた~」

「ああ、気をつけてな。カレンちゃんも」


「ああ、誰か護衛に付けようか? カレンちゃん? サミー? サミーどこだ?」


 !


 ダメ!


「ごめんなさい急ぐので。それに直ぐ戻るから。ありがとうございます。それよりこんなところで油売ってていいの? 殿下の護衛は大丈夫なんですか? ふふふ」


 そう言って私が笑顔で言うと、騎士様が苦笑いしながら言った。


「ハハハッ。殿下には内緒にしといてくれよな? まぁ気をつけて行くんだぞ? 何かあったら直ぐに!!」


「大丈夫です。結構私って。ね? ふふふっ」

「まぁなぁ……それでも油断はダメだぞ?」


「はい。では!!」


 …………。


 危なかったぁ……。

 それにしても、心配して声を掛けてくれた騎士様に対して……。


 計画成就の為とは言え、嘘を吐いてしまったことに罪悪感を感じていたが、セーラ様のことが気になり、私は急いだ。


 周りに人がいないのを確認した私は、急ぎ制服を脱ぎ、走る。





 ──居た!!


 私と違って生粋のお嬢様育ちのセーラ様がお一人で、乗合馬車の乗り場まで辿りつけたかと? 私は心配していたが無事、乗合馬車の列に並んでいるセーラ様のお姿を見て、胸を撫で下ろした。


「お待たせ、!」

「遅いわよ? 貴女?」


 そう私達は港に無事着くまでの間、馬車の中では姉妹を装うことにした。


 後ろに並び直そうとした私達に、年配の御夫婦が「構わないよ先に並びなさい」と言ってくれたので素直に厚意に甘えた。



 ──そして遂に無事馬車に乗ることが出来た。


 第二関門突破だわ!!



 無事成功しますように!!


 私は心の中で何度も祈った。



 先程、向かう途中に脱いだ自分の分の制服も入れたバッグが膝の上で、大それたことをしている自分の不安さと、罪悪感で鉛のようにずっしり重く感じていた。












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