第25話・愛の逃避行大作戦(1)

 その日から私達はセーラ様の部屋で「愛の逃避行大作戦」の計画を話し合った。


 最初私は、エリック王子と正式に婚約破棄の手続きをされてから、エドガー様のところへ向かわれるようにとセーラ様にはお願いしたが、そんなことは自殺行為だと。

 婚約破棄の申し出を父親であるボティチェルド侯爵が認める訳がないし、当然陛下もだ。

 王家との婚約破棄には国王陛下の承認が必要となる。


 フェリペ国王は、ボティチェルド侯爵家の財力と、人脈の後盾のお陰で、反対派をなんとか押さえ込んでやっと手に入れた国王の座。現在でもその王位は不安定であり、アルタニア王朝の正統な血を引くエリック殿下が王に即位されることを望む、反フェリペ王派が王宮内には沢山いるとセーラ様が言う。


 ボティチェルド家は、財力では国内一と言われる程の大貴族ではあったが、元々は商人の家だったらしい。

 前ボティチェルド侯爵(故人)が商売に有能であった為、莫大な財を成し、王宮内に多額のをし、王宮内での現在のフリーマン・ボティチェルド侯爵様の地位が守られていると。


「有能と言ってもただの成り上がりで、お祖父様のしたことは、ただの人攫いに過ぎないわ! 自分の出世の為に、フェリペ国王も、エドガー様も、みんなを利用して!! そのお祖父様の敷いた座布団に胡座をかいて座ってるだけのお父様も脳無しだわ!!」」


「……セーラ様」


「私はあの家が幼い頃から大嫌いだったのよ! 自分達だって元は平民のくせに、ちょっとお金が出来て貴族となったからって平民を見下し、自分の出世の為には娘も利用して。人は物じゃないわ!」


 セーラ様の目は怒りに震えていたが、先程までの涙は無かった。


「エリック殿下があの年まで王子のままで王太子になってない理由は何でかわかる? カレン?」


 私がその言葉に答えられず黙っていると、セーラ様が続けた。


「エリック殿下は血筋だけでなく、国民からの人気、才覚、部下からの信頼。全てにおいてフェリペ国王より有能だわ。この国がフェリペ国王でも何とかまわっているのは、バーガンディ宰相のお陰よ。でもね、陛下は自分の王座を守りたいのよ。だからボティチェルドと組んで、エリック殿下に私を充てがえ、一生飼い殺しにしたいのよ! 」


 え? 

 エリック殿下を飼い殺しに?


「傀儡の王を操り、更なる富と権力を手に入れたいボティチェルド侯爵は、娘である私をエリック殿下に充てがえ、その実権を自分の手にしたいのよ。フェリペ王は、自分の王位さえ守れればそれで良い人だからね。マーガレット妃が床に伏せてからはエリック殿下の後盾は弱くなり、反対にフェリペ王を支持するボティチェルド派はどんどん大きくなったわ」


 何それ? 

 エリック殿下ってフェリペ国王陛下の実の息子よねえ?

 父親が息子に王位を譲りたくないから、お金持ちに頼って王位を守るの?



「だから、エリック殿下には迷惑を掛けたくないのよ。私が正式に婚約破棄を申し入れたら、絶対に父はエリック殿下を無能だと声高に責め立てるはずよ。婚約者もちゃんと監理出来てなかったのか! とね。当然フェリペ王もそれに乗るわ。全てに完璧なエリック殿下を非難する絶好の機会ですもの」


 何それ? 何でそうなるのよ!

 自分達が勝手に決めたくせに!

 自分の息子と自分の娘でしょ? どちらも……。

 何なのよそれ!!


「でもカレン、もしエリック殿下が私が逃亡したらどうなると思う?」


 え? どういうこと?


「王子の妃になる女性が他の男を追って逃げたのよ? その責任はその者の実家の責任になるわ。だって王子は何も知らなかったんだもの。他に好きな男が居たことを次期王太子妃にと娘を婚約者に据えたのよ? 断罪されるなら殿下ではなくて、ボティチェルド侯爵よ!!」


 ええええええええええええええ?


 それって…………。


「大丈夫、どんなことをしてもエリック殿下には迷惑を掛けないって約束するわ。考えがあるの!」

 真剣な眼差しで私を見るセーラ様。


「でもそれだとセーラ様のご実家のお父上……」

 途中まで言いかけた瞬間、セーラ様が私を制した。


「あんな人、父親でもなければ、娘でもないわ! まして実家だなんて!! 自分のしてきた罪を償えば良いのよ!!」


「セーラ様……」


 セーラ様の強い意思に負けた私は、結局殿下にはこのことは秘密にし決行することになった。


 決行は来週末にある「豊穣祭」その日は王宮近くの公園に沢山の屋台や大道芸人達など色々な人々が集まる。ここ王宮の庭園も一般市民に開放される賑やかな祭りだそうだ。


 国王の名代であるエリック殿下が、毎年公園に出向き、市民の前で今年の豊穣を祈り「祈りの言葉」を捧げ終えると宴が始まるらしい。


 皆、一目エリック殿下のお顔をと思い、公園内外には人集になると言う。


 その隙を狙って城から私達は抜け出すことにした。




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