第24話・セーラの告白(2)

 それからセーラ様より、王子殿下とセーラ様、セーラ様の想い人の関係など色々と教わった。


 そして、一番驚いたことが……。


 セーラ様の想い人は何と、エリック殿下の腹違いの兄上だと!


 ただこれは王家にまつわるタブーな話で、現国王陛下は所謂いわゆる婿養子で、ご結婚前までは、王妃殿下が女王陛下として先王崩御後、即位されていた。


 だが、元々身体が丈夫でなかった女王様はご結婚と同時に、国政から離れられ、現在の国王陛下が王位をお継ぎになられた。


 此処までは私達国民も皆知っている話。女王陛下が退かれた際は私もとても悲しかったけれど、お身体の為となれば仕方ないことと、皆諦めたのを覚えている。


 ただ私達平民が知らないことがあった。

 

 この王宮では、口にするのはタブーとされていること。


 それが、エドガー様のことだ。


 元々、現国王陛下には、お付き合いしていたお相手がいて、そしてお相手の方はこのお城で働く侍女だったと。

 それなのに、急に沸いて来た女王陛下との縁談のお話。


 その話を持って行ったのが、セーラ様のお祖父様、故ボティチェルド侯爵様だった。ボティチェルド家はこのアルタニア王国内だけではなく、諸外国とも貿易を営んでいる大貴族であり、大商人でもある。


 ボティチェルド家が後盾となり現国王陛下は、身分の低い侍女を捨て、女王陛下とご結婚されたのだと。


 酷過ぎるわ……。


 ただ、当時この二人が付き合っていたことはあまり皆には知られていなかったらしい。それは現国王陛下の父上(故伯爵様)が猛反対だった為、二人は隠れてお付き合いをされていたからだ。


 国王陛下の女癖の悪さは、何度か耳にしたことが今までもあった。ダニエルさんも以前言い難そうにされていたことがあったし……。


 ただ悲劇はそれだけでは終わらなかった。


 実はその侍女様は、既にお子を宿しておられたらしく……。

 そのお子がエドガー様だと。


 ただ、お産まれになったエドガー様は、陛下が即位される前に出来た子であり、する以上、陛下の息子であることは法的にも認められていないし、戸籍上も親子ではない。

 

 そしてそのは「無かった」ことにされていたそうだ。

 エドガー様は、世間から身を隠すように辺境の地に追いやられたらしい。


 だが、ここで私がもっと憤る事実が。



 女王陛下の後を継いで王になった国王陛下だが、身体の弱かった王妃殿下との間に中々子供が出来ず、

(この国では国王と言えど、側室制度は認められていない。一夫一婦制である)

 

 そこで思案したボティチェルド侯爵は何と、追放したエドガー様を王宮に呼び戻したのだ。


 次期王太子として!! 


 そのことにショックを受けた王妃殿下は寝込んでしまい離宮に篭ることが多くなったらしい。

 

 国民から絶大な人気を誇る王女(王妃殿下)ということもあり、時期を見て発表しようと考えたボティチェルド侯爵と陛下は、エドガー様を秘密裏に次期王太子として王宮の離れにて住まわせていたそうだ。



 それから直ぐ後、もう国王陛下と、王妃殿下との間には子供は出来ないであろうと皆が思っていた時……。



 何と、エリック殿下がご誕生されたのだ。


 王家の正統な血筋を引く、本来女王陛下となり治世されるはずだった王女(王妃殿下)がお産みになった待望の男子。正式に国王に即位した王との間に出来た息子。


 エドガー様の存在を知らない国民は、エリック殿下の誕生を心から祝った。

「これでこのアルタニア王国も安泰だ! 王太子殿下誕生万歳!!」と。



 片やエドガー様の母親は平民から侍女になり、若い貴族青年のによって産まれた私生児。


 エドガー様は、エリック殿下のとして、エリック殿下が15歳になるまではこの王宮で過ごされていたらしい。



 エドガー様は政治や権力争いには興味がなく、美術や音楽の才があり、芸術を愛されていらっしゃるとても温厚な性格で、自分が都合よく扱われていることにも憤ることなくいつも穏やかだったと。

 

 そして、エリック殿下に対しても恨むことなく優しく接しておられ、二人は兄弟のように(事実兄弟だが)親しくされていたと。


 そんなエドガー様にセーラ様は幼い頃からずっと憧れを持っていて、段々成長していくとそれが恋心に変わったらしい。


 意を決して、セーラ様が父上様のボティチェルド侯爵様にそのことを伝えたら……。

 エドガー様が突然海外へ留学に。

 結婚に反対したボティチェルド侯爵が強引にエドガー様を国から追い出したのだ。


 国王陛下にしても、エドガー様の存在は公にしたくない存在。


「互いの利害が一致したのよ。15歳まで無事成長出来た殿下にはもうスペアは必要なかったし、それに殿下は国民からもとても人気もあるしね? 勿論彼にはそれだけの才覚があるわ」


 そんな……。

 酷過ぎる……。

 エドガー様は物じゃない!!

 お辛かったでしょうに……。


「邪魔だからと言って追い出しておいて、やっぱり必要だから帰って来いと呼び戻したかと思えば、本命が出来たから、やっぱり必要なくなったから出て行けって……。人の人生何だと思ってるのよ!!」



 セーラ様が仰る通りだ。許されるなら私が陛下と、ボティチェルド侯爵をぶん殴ってやりたい!!



「でもね。あの人ったら全く悪く言わないのよ? 元々自分は王の子でもないからって。エリックは可愛いと思うから一緒に遊んだり、勉強を見てやったりしたが、自分は王太子の座など狙ってもないし、エリックの影武者をと頼まれるなら喜んで受けたよ? って。馬鹿でしょ? エドガーって」



「…………」


 セーラ様の「馬鹿でしょ?」言って笑う顔が、笑っているのに泣いているように見える顔が、私には辛すぎて……。

 きっとエドガー様もセーラ様のことを今でも愛していらっしゃるはず。

 お互い愛しているのに!!



「セーラ様、セーラ様は本当にこのままで……」

 私は、あまりにもお二人の愛が辛すぎて思っていることを口にしてしまった。



「良いわけないでしょ! 良いはずがないからカレン、貴女に全てを話したのよ!」




 ──こうして私とセーラ様の、人生最大の愛の逃避行作戦に向けての話し合いが行われたのだった。




 このことが後に、私自身に起きる大事件になるとは、この時は思いもしなかった……。

















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