第23話・セーラの告白(1)
私はいつものように、セーラ様の部屋を訪ねる。
最初は周りのみんなにかなり心配されたが、最近はセーラ様と私が、上手くやっていることが伝わり、皆安堵している様子だった。
殿下は「あのセーラを手懐けるとは、流石カレンだ」と、何故か大笑いして褒めて? くれたし、侍女長様も「もうこれで貴女も一人前ですね」と優しく微笑んでくれた。
ただ、ダニエルさんだけは今だに心配して「何か辛いことがあったら、いつでも俺に相談しろよ」と会う度に心配そうに言ってくれる。
本当に心配性ね? ダニエルさんって。そう思いながらドアをノックする。
いつものように入室するが、何故かセーラ様のお顔が暗く、強張っている。
いつも明るいセーラ様が? 何があったのかしら?
何処か体調でもお悪いのかしら?
私は、その何やら重い雰囲気に、異変を感じセーラ様に尋ねる。
「セーラ様? 如何なされましたか? お体の調子でもお悪いのですか? 何か気になることでも??」
私のその質問に、セーラ様が突然泣きながら、私に抱きついて来た。
え?
私はセーラ様の思いも寄らない、その行動にかなり驚いたが、気丈でいつも凛として輝いておいでのセーラ様の突然の姿に、きっと何か大きな出来事があったに違いないと思い、背中を優しく撫で続けた。
そして、ヒックヒックと
「セーラ様? 大丈夫ですか? 此方をどうぞ?」
私の言葉にセーラ様がゆっくり頷いて、ミルクを口にされる。
「甘い……」
それから、一口、二口とミルクを飲んだ後、カップをテーブルの上に置いたセーラ様が、胸から一通の手紙を取り出し、私の前に置く。
?
私がセーラ様のお顔を見ると、セーラ様は無言で頷かれた。
そして、私はその手紙を手に取り内容を読み始める。
──!!!
──そこに書かれてあった内容は!!
私は、一瞬何が起こったのか分からなかった。
え? 嘘でしょ???
まさか??
『────すまない。
何これ?
最後に書かれてある名前………。
殿下ではなく別の男性の名前だった。
その後、少し落ち着いたセーラ様が私に、衝撃的な告白をした。
「実は私には幼い頃からずっと想いを寄せている人が居るの」
その言葉に私は、絶句した。
何てこと!!
元々数年前に一度、セーラ様はその御方と一緒になるつもりで、セーラ様のお父様である侯爵様に、お話をされたそうだ。だが、セーラ様のお父上は猛反対されたらしい。
それから数日後、突然お相手の男性が海外へ「将来の見聞の為」と留学されたそうだ。
ただその時は、年が離れており既に成人していたお相手の男性に対し、まだ10歳だったセーラ様は自分が幼過ぎて、妹のようにしか思われていないことを危惧し、相手には自分のお気持ちをお伝えしてなかったそうだ。
それからセーラ様は時が来るのをずっと待ち「海外留学生」の試験を自ら内緒で受け、見事その狭き門に合格した。
そして、侯爵様の猛反対を押し切って「海外留学」を実現したそうだ。
留学先が、我が国と親しい間柄と言う事もあって
ただ、誤算だったのはその後直ぐに、セーラ様に無断でアルタニア国内にて王子殿下の婚約者として正式に発表されてしまったそうだ。
王子殿下に何度も手紙を送ったそうだが返事は一切来ず、きっと父親に徹底的に握りつぶされていると思い、アルタニアへ警戒をしつつ、想い人の後を追ったそうだ。
彼女が幼い頃から何年も想い続けた相手に、セーラ様はやっと自分の想いを告げることが出来たそうだが、お相手の方は、彼女の立場を思い何度も断られたそうだ。
それでも負けず、セーラ様は何度も何度も想いを伝え続けた結果、お相手の男性も覚悟を決められ二人は一緒になる約束を。
今回留学を終えて、アルタニアに戻られたのは、お相手の男性の説得によるもので、ご両親と、殿下に自分の気持ちをちゃんと伝えて来るようにと。そして伝えたら必ず迎えに行くからと。
その言葉を信じ、セーラ様は帰国したそうだ。
それなのに、自分のことを忘れて、殿下と一緒になって欲しいと書かれた手紙を目にして、セーラ様はショックを受けられたらしい。
セーラ様が、ゆっくり重い口を開けて続けた。
あの時彼が自分を諭すように言った言葉「貴女を今まで育ててくれたご両親と貴女が喧嘩別れしたまま、国を逃げるように自分の下に来るのは間違っている。君には逃げるのは似合わない。殿下にも自分の気持ちをちゃんと伝えるのが、筋だろう?」
それを聞き、彼と離れることに不安はあったが、逃げるような真似だけはしたくない! と、覚悟を決めて帰国した。
「今思えばその言葉は、私と永遠に別れる為の彼の覚悟の言葉だったのね……」
セーラ様がポツリと小さな声で呟いた。そして、彼女の目には涙が溜まっている。
今にも溢れ落ちて来そうなその涙は、セーラ様のプライドによって辛うじてとどまっているように見えた。
「馬鹿な人……」
そう言って綺麗に微笑んで見せたセーラ様の笑顔が、今にも割れてしまいそうな繊細なガラス細工のようで私は思わず、彼女を抱きしめた。
──もしあの時、彼が私に正直に別れを告げていたら、私が生きることへ絶望を感じる事を危惧した彼の精一杯の優しさ。
彼が私を亡命者の妻にささない為の彼なりの優しさ──
「そんなことを私は望んだんじゃない!!」
セーラ様が大きな声で叫んだ。
「彼と一緒になる覚悟をした日から、その道は茨の道であることは覚悟の上よ! それなのに、意気地なし!! 私を舐めないでよ! 貴族の娘として生まれた私のプライドを舐めないで!!」
セーラ様が泣き崩れる。
そんな彼女の背中をただ、黙って撫でることしか出来ない無力な自分に私は無性に腹が立った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます