第21話・未来の王妃様に(3)

 ──翌朝。

「カレン本当に良いのね?」

 侍女長様が私の出した答えに、真剣な眼差しで確認した。


「はい。精一杯努めさせて頂きます」

「──分かりました。頑張りなさい」



 このニュースは、時を待たずして王宮中に伝わった。


「経験の浅い侍女が、次期王太子妃の側に仕えるなど前代未聞だ!」時期尚早と反対する官僚達と、彼女の「失敗」を望む、同じ侍女仲間の間で注目の的となった。



 ──そんな中、王宮内を怒り心頭の表情で、足早に歩く一人の騎士の姿があった。


「失礼しますダニエルです。無礼をお許し下さい。殿下にお話があって参りました」


 彼は父親に、この国きっての叡智と言われる宰相バーガンディ伯爵。祖父には、かつて宰相や国王軍最高司令官等の重責を担った経歴を持つバーガンディ侯爵。


 彼本人も、王子とは幼少時は遊び仲間として、成長した現在は、騎士の中でも最高峰精鋭集団の近衛隊で過去最速で副長となり、将来は父や祖父のように、王子の右腕となって働くことを誰もが望んでいる優秀な青年だった。


 そんな優秀な彼が、珍しく人目を気にせず、怒りを露わにして声高に王子の執務室を訪ねる。


「ダニエルか? 入れ」


 ──ガチャリ



「何だ? 急用か? お前がそんなに焦るのは珍しいなぁ?」


「殿下! どういうことですか? カレンちゃんが、セーラに。あ、いやセーラ様の側に付くことを何故許したんですか!!」


 ダニエルは、目の前に居るのが自分の主人、王子だと言うことも忘れているかの如く、王子に強い口調で言う。


「まぁダニエル落ち着け。取り敢えず、座れ」


「……。」


 無言のまま腰を掛けたダニエルの顔には、今だ怒りの表情が露わになっている。


「侍女の配置を決めるのは侍女長と、その統括を任されたにある。それに決めたのは彼女自身だ。彼女がセーラ嬢の申し出を受け、侍女長と私が彼女なら出来ると判断したから了承したのだ。口出す権利はない。話しがそれだけなら、自分の任務に戻り給え。ダニエル


「しかし! 殿下もご存知の通りセーラ様は!!」


「ダニエル此処は王宮だ。お前のその安っぽい幼稚な恋愛話に、俺は付き合うつもりはない。例えであるお前の想い人であっても、特別視することはない。それにこれは彼女にとってもチャンスなんだぞ? セーラに気に入られ、セーラが推薦すれば昇進は間違いないからな?」


 ダニエルは自分の気持ちを、王子から指摘されたことに酷く動揺したが、よりも、彼女を心配する気持ちを抑えれず言う。


「でも失敗したら!! 彼女は!!」


「ダニエル。俺と侍女長を見くびるなよ? そしてセーラもな。失敗を恐れていては、挑戦は出来ない。失敗した時、その失敗を糧に成長させれるか? 育てるのが上に立つ者の使命だ。躓くまえに抱き上げることが、良い親か?」


 王子の言葉に納得出来ないダニエルは再び主君に強く言った。


「でもそれで潰れてしまったら!!」


「だから、俺達を見くびるなと言ったろ? が彼女にはあると思ったから許可したんだ」


「…………」


「それになぁセーラだって、本当に有能な人間を自分の我儘だけで切り捨てるようなことはしないはずだ。何せあの性格だからな。ハハハハハッ。子供の頃からアイツには、俺達いつも手を焼いていたけど、でもアイツは間違ったことは言って無かったよ?」


 ダニエルは子供の頃一緒に遊んだセーラ嬢のことを思い出す。

 いつも「正しいこと」を真っ直ぐに言う彼女。

 剣術の稽古で、王子に怪我を負わせる訳にはと思い、騎士が手加減していると「そんなの本当の稽古じゃない」と、団長に食って掛かった小さな少女。

 それを止めに入った俺と、俺達の兄貴分のエドガーは、いつも騎士達に説教されていたのを思い出す。


 てっきり彼女は殿下の……。エドガーを慕っていると俺は思っていたのだが……。

 彼女が留学に行ったと同時に殿下の婚約者にと発表された時は俺は内心驚いた。


 このことについては。敢えて俺も殿下には何も言わなかったが……。

 三人の間に何があったのか? は俺にも分からなかった。



 確かに殿下が言うように、セーラの性格なら自分の我儘だけで侍女を切り捨てるような理不尽はしないだろう。


 だが、やはりのことが気になってしまう、自分の気持ち。


 ──そうだ。俺は彼女に……。



 惹かれている。





 自分の中で、何故此処まで取り乱してしまうのかと? 分かっていても認めないようにしていたこの気持ち。


 殿下にはっきり言われ、確信した。



 ──俺は彼女を愛している。


 そして、は殿下が言う通り間違っている。

「安い感情」確かにそうだ。公私混同と言われても仕方がない。


 でも俺は、俺のやり方で彼女を守りたい……。





 ──会議に向かった殿下が部屋を去った後、王子の執務室に一人残ったダニエルは、愛する者を守りたい。彼女の傷つく姿を見たくない。彼女に降りかかる困難を何とか取り除き、まるで向日葵のような元気な彼女の笑顔を決して曇らせたくない。と、強く決意していた。

















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